当主継承編 桜散る
権力がある者は、その場にいるだけでその他の者を、脅かす。
その他の者は、権力がある者が言ったことなら絶対に逆らってはいけない。
例えそれが、人の命を脅かすことでも。
刀を持った男らに囲まれてしまった悠美。
だが今は、そんな事より充のことが気になる。
「充……なんでこんな事するんだよ……! 馬丁になったから頑張って働いて、母上を幸せにするって言ってたじゃないか……!!」
「あれも嘘だったのか?」そう問いかける悠美に、充は「それも嘘だよ」と笑う。
「え……」
「僕に母親は居ない。死んだんだ、丁度一ヶ月前に。お前ら、皇宮の人間のせいでな!!」
そう叫び、キッと悠美のことを睨む充。
悠美は「嘘……」とショックを受けた表情を浮かべる。
「温室育ちの世間知らずな坊ちゃんだとは思っていたけど、ここまで騙されるとは、可哀想になって来るよ。」
充は吐き捨てるようにそう呟くと、男らに「もうやっちゃおうよ」と言う。
「そうだな。早くしないと、皇宮の奴らが勘づいちまう」
男らはそう言って悠美に近づき「すまないな、坊ちゃん。恨むならお前の父上を恨みな」と刀を振り上げた。
その時。
「あっちぃ……!!」
男たちに向かって悠美は、火を放ち、男らは慌てて自身についた火を払おうとする。
まだ、幼いのでそこまで力はないが、隙を作ることはでき、男たちが火を消すのに気が向いている隙に、悠美は先程通って来た穴を目掛け走る。
「あ、おい! 逃げたぞ!!」
男らは悠美が逃げ出したことに気づき、すぐさま後を追う。
その時「わっ……!!」と悠美はそう声を上げると、その場に倒れ込む。
どうやら、靴が脱げ引っ掛けてしまったらしい。
足音がし、悠美は振り返ると、直ぐそこまで男らが来ており、悠美を見下ろして気味の悪い笑みを浮かべていた。
「運がなかったな。」
一人の男がそう言って刀を悠美目掛け、振り翳した。
その時。
「え……」
悠美の視界に、美しい梅紫色の髪が入って来、誰かが悠美を庇うように悠美の事を抱きしめる。
その瞬間、女性の呻き声がする。
「は、母上……?」
悠美は自身のことを抱きしめる人物を見ては、そう呟き、男らはざわつき出す。
悠美を庇ったのは、皇后で、背中から大量に血を流している。
そのことに気づいた悠美は声を震わせ、瞳に涙を浮かべながら「母上……返事してください……!! 母上……!!」と皇后の事を呼ぶ。
だが、皇后が返事することはない。
その光景を見ていた男らは「お、おい……! 皇后を殺すなんて計画になかっただろ!」「どうすんだよ……!!」と慌てだす。
男らにも、皇后が現れることは予想外のことだったらしく「逃げるぞ……!!」とその場から逃げようとする。
だがそれを、やって来た仁柊含め、警備隊が阻止する。
次から次へと男たちの事を斬っていく仁柊たち。
その横で、悠美はひたすら皇后の事を呼び続ける。
「悠美様!!」
仁柊が駆け寄ると、悠美は顔を真っ青にしながら「仁柊……母上が……」と仁柊に助けを求める。
仁柊は、皇后の首元を触る。
「まだ脈があります。直ぐに医務室へと連れて行きます」
仁柊はそう言うと、悠美から離れ近くの警備隊に声をかける。
その時「ゆう、び……」と名前を呼ぶ声がし、悠美はハッとし皇后の事を見る。
「は、母上……!!」
皇后は目を覚ましており、悠美に笑いかけているが、息が上がり、血は止まらず苦しそうだ。
涙を流す悠美の頬に手をやると皇后は「本当に……悠美は泣き虫ですね……」と笑う。
そんな皇后の手を悠美は握り返す。
皇后の手は冷たくなっており、悠美は必死に温めようと握る手に力を入れる。
「母上、直ぐに仁柊が医務室へと連れて行ってくれます。そしたら、お医者さんが治してくれますよ」
悠美は、今にも目を閉じてしまいそうな皇后に、必死に声をかける。
そんな悠美に「ありがとう、悠美」と返すと、先よりも更に優しい笑みを浮かべる。
「悠美、これだけは覚えておいて。どんなに辛いことがあっても、人を愛し続けなさい。例え傷つけられようが、裏切られようが。そうすれば、きっと周りの人たちも貴方のことを同じように愛してくれるから」
「貴方は賢くて心優しい子だから母がいなくても大丈夫」
そう声を震わせながら言う皇后に悠美は「そんな事ない……!! 母上が居なくなるのは嫌だ……!!」と泣きつく。
だが、皇后は「ごめんね、悠美」と言うと一つ涙をこぼす。
そんな皇后を見て悠美は「母上……! 母上……!!」と呼ぶ。
もう意識が朦朧としてきている中。
皇后は最後の力を振り絞り、悠美に言う。
「悠美……愛してるよ……」
そう言うと、皇后は目を閉じ、綺麗な涙を流しながら、息絶える。
「母上……!!」
悠美の叫び声とも言える声が響き渡る。
その声を聞いた仁柊や、周りの者たちは皇后が亡くなったことを悟る。
まだ男らが残る中、仁柊は警備隊に「皇后様をお運びしろ。他のものは残りを始末しろ。皇后様を殺したんだ、生きて帰すなよ」と指示を出す。
仁柊に指示を出され、警備隊が皇后の事を運ぶ。
取り残された悠美はその場に膝をつき、声を上げ泣いている。
悠美と皇后のやり取りをじっと見ていた充の体は何故か震え、息も荒くなっている。
そんな充の頭の中に、一瞬、ある光景が蘇って来る。
一人の痩せ細った女性が、布団の中で横たわっており、深く眠っているように見える。
充は荒くなった呼吸を整えると、小刀を持つ手に力を入れると、悠美目掛け歩き出す。
そのことに気づいた悠美は、立ち上がる。
一人の、近くにいた警備隊が悠美を守る形で、充に向かい刀を向けるも、悠美は「やめろ」とそれをやめさせる。
そして、警備隊に離れているよう告げると、充のことをまっすぐ見て問いかける。
「お前の目的はなんだ?」




