当主継承編 聞かせて
「わぁ……すごく綺麗だね」
悠美が、泉凪を連れて行きたい場所があると言い、やって来たのは皇宮内にあるあまり、人の出入りがない庭だった。
そこには、季節外れの桜が満開に咲いており、炎と月明かりで照らされており、なんとも言えない幻想的で美しい光景が広がっていた。
そんな光景に、泉凪は目を輝かせ、桜の木を見上げる。
「綺麗だろう?」
目を輝かせ、桜の木を見上げる泉凪を見ながら、悠美はそう問いかける。
「凄く綺麗だね。よく、こんな場所を知っているね。」
そう言う泉凪に悠美は、少し恥ずかしそうに答える。
「幼い頃、皇宮内で迷子になった時にたまたま見つけたんだ。それまで、帰れなくて泣いていた涙が、この光景を見て一瞬で引いたんだ」
悠美の話を聞きクスッと笑いながら、泉凪は「確かに、皇宮内は広いもんね。私も幼い頃は何度か迷子になったな」と言う。
「それから何度も、疲れた時とかはここに足を運ぶようになったんだ。ちょうど、池の近くに座る場所もあるし、人も全く来ないから休憩するのにうってつけなんだ」
「心温もこの場所は知らないんだ」といたずらに笑う悠美。
そんな悠美の話を聞いた泉凪は「そんな場所、私なんかに教えてよかったの? 誰にも教えてないんでしょ?」と聞く。
悠美は何処か照れくさそうに「泉凪はいいんだ。だからいつでも来るといいよ」と笑う。
泉凪は少し間をおいて「……ありがとう」と笑みを浮かべる。
「本当に、綺麗で落ち着く場所だな……」
風に靡かれながら、桜の木を見上げる泉凪。
その横顔はあまりにも美しく、思わず見惚れてしまう悠美。
そして、泉凪の髪が少し伸びていることに気づき、手を伸ばし思わず泉凪の髪に触れてしまう。
そのことに気づいた泉凪は、不思議そうに「どうしたの?」と言う。
ハッとした悠美は「す、すまない……! 髪が伸びたなと思ってつい……」と顔を赤くし、慌てて手を引っ込める。
そんな悠美に泉凪は「伸びたでしょ? 意外と短いのも気に入っていたんだけどね。」と笑う。
髪が意図せず短くなり、辛くなかった訳が無いはずなのに、こうして短いのも気に入っていたと笑っている泉凪。
それが、本心なのかそうでは無いのか定かでは無いが、そんな泉凪がかっこいいと思い、また、とても愛おしいと思う。
「どちらもよく似合っている」
「ありがとう」
そう柔らかく笑う泉凪。
そんな泉凪ともう少し仲良くなりたい。
辛い事や楽しい事、どんな事でも全て自分に話してほしいし、どんな泉凪も見ていたい。
それと同じように、自身の事も泉凪には何でも知っていてほしい。
「泉凪。今日、泉凪をここに連れて来たのにはもう一つ理由があるんだ」
真剣に真っ直ぐ泉凪を見てそう言う悠美。
そんな悠美を、泉凪も真剣に見つめ返し頷く。
「私の……過去の話。皇后である母を亡くし、そこに居たと言う事実すら消し去られてしまった、私の親友だった者を亡くした日の話を」
悠美の言葉を聞き、泉凪は目を見開き驚くも、優しく微笑み「聞かせて」と頷く。
「あれは、今から九年前の日のことだった」
そう言って、悠美は桜の木を見上げながら、自身の過去について話を始める。




