当主継承編 秋月夜の会
「……まさか、地星の晃様が七位以内から外れるとはな」
秋月夜の会当日。
会場へと向かう道中、悠美から順位の話を聞いた心温は、腕を組み眉を顰めながらそう話す。
そんな心温に悠美は「まぁ、謹慎もしていたしな。自業自得だが」とさほど興味がなさそうに返す。
「それはまぁ、そうだが……。七位以内に入っていないと言う事は、座学最終日に晃様が岩を割れなければ、当主どころか副当主すらなれないと言うわけか」
岩を割れれば、順位が高かろうが低かろうが、当主になれるのに、順位が決められている理由。
それは、各家の当主になれなかった者たちの中で、順位が高かった者が副当主となるからだ。
各家には、当主を支える副当主がいる。
その副当主は、当主とは違い、神力が高い者がなる事ができるため、皆、力をつけるために日々座学に勤しんでいるのだ。
尚、副当主に皇位継承権はない。
「まぁ、なれなければその程度の者だったと言う事だろう。本当に当主に相応しいのなら、順位が低かろうが当主になれるのだからな」
悠美の言葉に「それはそうだな」と頷く心温。
そんな話をしているうちに、会場にやって来、会場についた途端、悠美は辺りをキョロキョロと見渡す。
そして、とある人物を見つけた途端、先程まで興味がなさそうに晃の話をしていた時の表情から打って変わり、瞳がきらりと光、まるで宝物でも見つけたみたいな表情を浮かべると「泉凪!」と愛おしそうにその名を呼ぶ。
悠美の視線の先には、花都と一緒に会場内にいる泉凪がおり、名前を呼ばれるとゆっくりと後ろを振り返る。
そして、悠美に気づくなり「悠美」と名前を呼ぶ。
「もう会場に来ていたのか」
嬉しそうに泉凪の元へゆき、そう声をかける悠美を見た心温は、無いはずの尻尾が見える。
(普段は気高い猫って感じだが、月花様の前では忠実な犬って感じだな)
なんて心温は頭の中で猫な悠美と、犬な悠美を思い浮かべる。
「早めに来て見て回ろうと思ってね。それより、悠美。髪飾りよく似合っているね」
泉凪の言う通り、悠美は頭に桜を模した髪飾りを付けており、その姿はとても美しく華やかな着物と女性のように美しい顔立ちもあり、女性のように見える。
「私より、泉凪の方がよく似合っている。思わず見惚れてしまいそうなほどだ」
秋月夜の会では、参加する者は皆、頭に桜を模しした髪飾りをつける事と、色鮮やかな着物を着用する事が決まっており、泉凪の頭にも桜を模しした髪飾りが付けられてある。
悠美にそう褒められれば、世の女性は皆、頬を赤らめ飛び上がるように喜ぶが、泉凪は「褒めすぎだよ」と笑うのみで、全く意識はしていない様子。
そんな泉凪を見た心温は(凄い……! 悠美のあの笑みを間近で見た上、甘い声であんな事を囁かれているのに、全く動じていない……!!)と感服する。
「まだまだ先は長そうだな、悠美」
うんうんと頷きながらそう呟く心温に、悠美は「何がだ?」と怪訝そうな表情を浮かべる。
「泉凪もこれから、屋台などを見て回るのか?」
悠美の問いかけに頷く泉凪。
そんな泉凪を、悠美は一緒に会場内を見回ろうと、誘おうとするも、緊張で「なら、よ、良ければだが……」と中々言えずにいる。
そのことに気がついてなのか、はたまた気づいていないのか分からないが、泉凪が「良ければ、一緒に会場内を見て回らない?」と悠美を誘う。
まさか、誘われると思っていなかったのか、悠美は「え……」と驚いた表情を浮かべる。
「もしかして、先約があったかな?」
「いや、ない!! 一緒に回ろう!!」
食い気味でそう言ってしまい、恥ずかしさが込み上げてくる悠美。
そんな悠美を見て、泉凪は眉を八の字にし笑い「良かった」と呟く。
笑っている泉凪を見た悠美。
その時、まだ幼かった時の記憶が、頭の中に蘇って来た。
それはまだ、泉凪と悠美が八歳で、一回目の皇宮入りの時の事。
二人は同い年だが、泉凪の方が後から皇宮入りをしたため、あまり接点がなかった。
だが、悠美は泉凪を秋月夜の会に誘いたいと思い、泉凪を探した。
人混みの中、見つけた泉凪。
そんな泉凪に声をかけようとするも、悠美はそれをやめる。
誘っても、あまり話した事がないから、断られると思ったからだ。
そんな思いが頭をよぎり、躊躇っていると「いーずな!」と何処からか、泉凪の名を呼ぶ可愛らしい声が聞こえてくる。
泉凪の元にやって来たのは、まだ幼い頃の心大で、嬉しそうに泉凪にくっつくと「一緒に会場内を見て回ろ!」と泉凪を誘う。
心大と仲が良い泉凪はもちろん、承諾し、二人は仲良く歩いて行く。
そんな二人を悠美は寂しそうに、ただ見つめることしかできなかった。
「悠美?」
過去のことが思い出され、ぼーっとしていた悠美は、泉凪が名を呼ぶ声ではっとする。
そんな悠美を心配そうに覗き込む泉凪は「どうしたの? ぼーっとして。もしかして体調悪い?」と尋ねる。
悠美は「大丈夫だ。早く見て回ろう」と笑うと、泉凪も「そうだね」と頷く。
そして歩き出す泉凪を見つめると、悠美は「まさか……こうして泉凪と見て回ることになるとは……念願叶ったな」と嬉しそうに呟くのだった。




