当主継承編 順位
例の鍾乳洞の件から一月が経った。
「もう直ぐ、秋月夜の会だね!」
その日も、座学が行われていたため、師範が座学室にやってくるまで、泉凪たちは談笑をしていた所、唐突に心大は目をきらりとさせながら言う。
そんな心大の言葉に泉凪たちは「そうだったね」と返す。
秋月夜の会とは、その名の通り秋の満月が美しい夜の日、秋に咲く珍しい桜の花の下で、出店が出されお祭り事が行われる。
この秋月夜の会は毎年行われ、一般開放もされ、一部の官人らもその日は業務が無いため、国民も官人らも楽しみにしている行事なのだ。
心大も、楽しみにしているうちの一人らしく「楽しみだなぁ」と嬉しそうにしている。
「最後に秋月夜の会を行ったのは、八歳の頃以来だから、十一年ぶりだな」
悠美は顎に手をやりそう呟く。
そんな悠美に続けるように、心大は「僕と泉凪は七年ぶりだね」と言い、泉凪は「そうだね」と頷く。
悠美も泉凪も声から、楽しみにしている事が伝わってくる。
心大だけではなく、泉凪たち他の神力者たちも、この秋月夜の会を楽しみにしているのだ。
「今年は、どんな出店が出てるのかな?」
「僕が最後に行った秋月夜の会では、水飴が売っていて、とても甘くて美味しかったですよ」
ニコニコと笑みを浮かべる心大に、千季は「心大は甘いのが好きだね」と笑みを浮かべる。
その時、座学室に師範と大神官の藍良がやってき、皆、席につく。
「皆様もご存知の通り、もう直ぐ、秋月夜の会が行われますね。ですが、その前に今日は座学最終日に向け、神力の最終順位を発表させて頂きたいと思います」
藍良の言葉に、神力者たちはピリつく。
秋月夜の会が終われば、あっという間に座学の最終日がやってき、当主が決められる。
その前に、座学での神力者たちの最終順位が発表されるのだ。
最終順位が高かろうが、低かろうが、岩を割れなければ当主にはなれないのだが、やはり、歴代の当主らは皆、最終順位が高いものたちばかりだったため、緊張感が走る。
「それでは、発表させていただきます」
藍良はそう言うと、十七位から順に発表していく。
十五位の発表で「地星家心大様」と心大の名前が呼ばれる。
今まで心大は、十六位だったが一つ順位が上がった。
それでも順位が低いため、心大の表情は暗くなる。
藍良は次々と順位を発表して行く。
そして十位の者が発表された所で、座学室内が騒つく。
何故ならば、今までずっと七位以内におり、地星家で一番の当主候補だった晃の名前が呼ばれたからだ。
「晃が十位?」
「謹慎くらってから、ずっと調子が悪かったもんな」
騒つく室内に、藍良はひとつ咳払いをし「続けます」と八位まで発表して行く。
七位からは、当主になるのに最も近い神力を持つとされており、まだ呼ばれていない者たちもいつもの顔ぶれの中、ただ一人のみ、いつもと遥かに違う順位の者がいた。
「七位、地星家若菜様」
再び、座学室内が騒つく。
泉凪たちも驚いている様子だ。
それも無理もない、今までの順位発表でいつも、十位以下にいた若菜が、ここに来て七位以内に入っているのだからだ。
いつも、七位以内に入っていた、一番の地星家当主候補の晃が十位と言う結果だった上、いつも十位以下だった若菜が七位と言う結果は、当主継承に大きく影響してくるのではと、神力者たちは騒つく。
「皆様、まだ順位の発表の最中ですよ。お静かに願います」
藍良の言葉に、皆は黙るも、やはり驚きが隠せない様子。
それからの順位は六位、雷林家涼雅、五位、風音家文月、四位、月花家泉凪、三位、水園家千季、二位、氷彩家雪乃、一位、火翠家悠美と今までと大して変わらない結果となった。
「千季、三位なんて凄いじゃないか」
座学後、文月は千季の元へ行き、素直にそう褒める。
今まで千季はずっと四位だったため、三位になる事は初めてなのだ。
だが、千季はあまり嬉しくないらしく、曖昧な表情を浮かべる。
そんな千季に文月は「これで、前回順位が信じられないくらい低かったのは、手を抜いていたからと証明されたね」と言い笑う。
「まだ根に持ってるのか……」
「当たり前だろう? 君ほどの実力があるのに、わざと順位が低くなるようにするなんて。まぁ、当主になるのに順位は関係ないけどね」
「まぁ……」
やはり、どこか曖昧な表情を浮かべる千季に、文月は「どうしたんだい? 先から。曖昧な返事ばかりして」と聞くも、千季は「何もないよ」と返事をする。
すると、その時「おい! 今まで威張っていたくせに、何だこのザマは!!」と言う声が座学内に響き渡る。
見てみると、晃を、晃の取り巻きをしていた者たちが、囲むように立っていた。
どうやら、今まで威張って来た晃の順位が下がった事で、ここぞとばかりに今までの鬱憤を晴らしているよう。
自ら望んで晃の取り巻きをしていたのに、情けないことこの上ない。
そんな者たちを「順位が高ければ媚を売り、順位が下がれば罵り。君たちは一体何がしたいんだい?」と文月は止めに入ろうとした。
その時だった。
「いくら今回の俺の順位が低かったからと言って、そんな俺よりも順位が低いお前らが俺に刃向かうとはいい度胸だ。刃向かった事、ここで後悔させてやろう」
晃がそう言って、取り巻きだった者たちを睨むと、取り巻きだった者たちは「ひぃっ!!」と声をあげる。
そんな者たちを見た晃は「この程度で怯む奴らと、今まで付き合っていたと思うと、情けないな」と言い、座学室を後にする。




