当主継承編 重ねているのか?
「やはり、其方らが倒したと言う妖は、例の変死体の犯人だった」
翌日、謁見室にて皇帝に呼び出されていた、泉凪、悠美、千季、若菜の四名は、皇帝の鍾乳洞内にて遭遇した巨大な妖についての話に耳を傾けていた。
やはり、巨大な妖は例の変死体の犯人だったらしく、現在皇宮内にて、巨大な妖は調べられている。
「地山の町の住人らも、アザはすっかり消え元気に過ごしていると文が届いていた」
皇帝の言葉を聞き、安堵する泉凪たち。
小物の妖の言う通り、住人たちのアザは一週間もすれば消えて無くなり、その間、特に体調が悪くなったりすることは無かったそう。
櫻子が言っていた、一番初めにアザが出たと言う観光客の体調が悪化した件については、観光客の虚言だと言う事がわかった。
小物の妖は初め、鍾乳洞の中に来た者たちを影から襲っていたそうだが、全く人が来なくなったことにより、妖気を流し催眠をかけ鍾乳洞の中へと入らせようとしていたと、後の聴取で分かった。
尚、その催眠は神力者には効かないものだったらしい。
皇宮警備隊が、何事もなく帰って来たのは、やはり、調査を怠っており、それを聞いた悠美からお叱りを受けたのは言うまでもない。
櫻子が、小物の妖の言葉を聞いても、催眠にかからなかったのは、櫻子が持っていた祖父から貰ったという簪のおかげだったと、文に書かれていた。
地山の町で取れた緑色の地山石で作られた簪には、魔除けの効果があったそうで、祖父が守ってくれたのだと、泉凪に宛てた文に書かれてあった。
「地山の町の件を解決し、自身より上の強さの妖相手に、よく考え協力しあい行動したな。よくやった。陛下は誇らしいぞ」
そう泉凪たちを褒める皇帝に、泉凪たちは顔を見合わせ、照れくさそうに笑う。
そんな泉凪たちを見て、皇帝はうんうんと笑顔で頷き、皇帝の隣に立つ仁柊も優しく微笑む。
「それでは陛下。失礼致します」
泉凪、千季、若菜の三人は、話を終え謁見室から出て行くが、悠美は皇帝に話があると謁見室に残る。
泉凪らが出て行くのを見送った陛下は、悠美に「それで父に何の用かな? 息子よ」と問いかけるも、悠美は「……父上ではありません。皇帝陛下に用があるのです」と呆れた表情を浮かべ、仁柊が「どちらが子どもがわからないな」と思ったのは言うまでもない。
皇帝は少し不貞腐れ「それで、高貴で偉大なる皇帝陛下に何の用かな?」と再度問いかける。
だが、悠美はそれを無視し「例の鍾乳洞の件で少し気になる事が」と言う。
「気になる事?」
「はい。心温」
丁度、謁見室へと入って来た心温の名を呼ぶ悠美。
心温の手には、一本の矢があり、それを悠美に渡す。
その一本の矢を見た皇帝は「矢?」と首を傾げる。
「これはあの時、鍾乳洞に落ちていた矢です」
悠美の言葉を聞いた皇帝は「確か、例の妖を仕留めた時に、地星当主が矢を使ったと聞いたが……その時のか?」と問いかける。
「いえ。この矢はまた別の矢です」
「別の矢? 二回弓を放っていたのか?」
「確か、記録では一回だけの筈ですが……」
皇帝の言葉に続け、仁柊は顎に手をやりそう呟く。
仁柊の言葉を聞いた悠美は「仁柊の言う通り、放たれた矢は一本だけでした。そして、その一本はこの矢を鍾乳洞で拾った時、妖の身体に刺さっていました」と頷く。
「つまり、記録では一本だけ放たれたと書かれていたが、実際は二本放たれていたと?」
「恐らく……まだ真新しいですし、他のものが鍾乳洞内にて、矢を放つとは思えません。」
悠美の話を聞き「確かに」と皇帝は頷く。
「ですが、確かにあの時、放たれた矢は一つだった筈です」
「だった筈……?」
「えぇ。私はこの目で矢が放たれた所を見ていませんので。ですが、地星の……若菜の話では、地星当主が矢を放ち、それが妖に当たったとの事ですが」
悠美の言葉に皇帝は頷き「問題は何故、もう一本矢が鍾乳洞内にあったのか、だが」と顎に手をやり考える。
そんな皇帝に悠美は「……あの時、地星の若菜は背に弓矢を背負っていました」と言う。
「……地星のを疑っているのか?」
「いえ、そう言うわけではありませんが」
そう言葉を濁す悠美。
そんな悠美に皇帝は「例の少年の時と重ねているのか?」と問いかける。
その言葉に悠美は言葉を詰まらせる。
「確かにあの件に地星は関わっていた。だが、だからと言って地星の人間が全て悪とは限らない。罪を憎んで人を憎まずといつも皇后も言っていただろ?」
「……そう、ですね」
悠美はそう言うと「浅はかな考えで、時間を取ってしまい申し訳ありません。私はこれで失礼します」と出て行こうとする。
そんな悠美を見た心温は、オロオロとする。
「悠美」
皇帝に名を呼ばれ立ち止まる悠美。
そんな悠美に皇帝は「何かあれば言うのだぞ。これは皇帝ではなく、父としての言葉だ」と告げる。
悠美はチラリとだけ、皇帝の方を振り返ると「いえ、もう子どもではないので」と謁見室を後にする。
その後を直ぐに心温は追う。
「どうしてあのような事を仰ったんです? 例の件で、悠美様は母上もそして、親友だったものも亡くしているのですよ?」
仁柊にそう言われた皇帝は「……そうだな。悠美にああは言ったが、一番人を憎んでいるのは私かもな」と呟く。
その様子が、何処かいつもの様子と違うく見えた仁柊は「陛下?」と尋ねるも、皇帝は「いや、何でもない。またこうして、間違えていたら叱ってくれるか、仁柊」と言う。
「何です? 藪から棒に。らしくないですよ」
「ははっ。仁柊は相変わらずだな」
そう笑う皇帝を仁柊は(全く読めない方だな)と見つめる。




