当主継承編 詠唱
泉凪ら三人は、巨大な妖にどう立ち向かうか話をする。
とっくに、泉凪の神力の蔦は、巨大な妖により切られてしまっている。
「……それじゃあ、千季の負担が大きすぎない?」
千季の提案に、心配そうにそう言う泉凪。
悠美も「神力は持つのか?」と問いかける。
千季は「神力は尽きるかもしれない。けど、これが今できる最大の事だ」と真剣な表情で言う。
そんな千季を見た泉凪と悠美は、お互いに顔を見合わせ「その作戦で行こう」と頷く。
「やるからには、倒す覚悟でやらなければな」
悠美の言葉を合図に、三人はそれぞれ作戦を決行するため動く。
泉凪は、巨大な妖の裏に回るため、巨大な妖に近づく。
当然、巨大な妖は泉凪に惹きつけられる。
そんな巨大な妖に、悠美は自身の神力をぶつけ「お前の相手は私だ」と自身の方に意識が向くように仕向ける。
悠美の思惑通り、巨大な妖の意識は悠美に向けられ、悠美に向け炎を吐く。
巨大な妖が吐く火には、毒が混ざっているので、その毒にも注意しなければならない。
だが、泉凪たちは毒にやられる可能性も考え、行動する。
「泉凪!!」
悠美が、巨大な妖の裏に回った泉凪の名を呼ぶ。
その瞬間、巨大な妖の身体に蔦が巻きつき、巨大な妖の動きを止める。
それを確認すると、悠美と泉凪は「千季!! 今だ!!」と叫ぶ。
すると、高く伸びた鍾乳石の上に立つ千季は、胸の前で親指から中指にかけて三角を作り、何やら唱え出す。
「この世の悪や穢れは、全て泡となり消えてしまえばいい」
「──泡沫」
千季がそう唱えた途端、巨大な妖の身体を幾つもの泡が纏わりつく。
かと思えば、泡は弾けだし、巨大な妖の身体は切られ、巨大な妖は苦しみ叫びながらその場に倒れ込む。
そして、先ほどまで威勢の良かった巨大な妖は、びくともしなくなる。
「やった、のか……?」
「みたいだね……」
その時、今ので力を使い切ったのか、千季はその場に倒れ込み「千季!!」と泉凪は、千季の元に駆け寄り、支える。
「泉凪、怪我はない?」
自身が一番ボロボロなのに、泉凪の心配をする千季。
そんな千季に「私は大丈夫だよ。それより、千季の方がボロボロじゃない」と眉を八の字にし笑う。
「早く出て、医者に診てもらったほうがいい」
悠美はそう言って、千季に手を差し出し、それを掴もうとした時、千季は血相を変え「悠美、後ろ!!」と叫ぶ。
「え……」
悠美が後ろを振り返ると、倒した筈の巨大な妖が起き上がっており、悠美ら目掛け炎を吐こうとしていた。
だが、何処からか飛んできた弓矢に当たり、巨大な妖はその場に倒れ込んだのだ。
あまりにも急な事で、理解が追いつかない悠美は「なん、だったんだ……」と呆然としている。
その時、何処からともなく「皆さん、ご無事ですか?」と言う声が聞こえてくる。
声のした方を見てみれば、そこには弓矢を背に背負った若菜が、心配そうに泉凪たちの元へとかけてくる。
そんな若菜を見て、千季は「若菜……? どうしてここに? というか今の矢、若菜が放ったの?」と驚く。
若菜は「いえ、今のは……」と言いかけた時「若菜。火翠の若君たちは見つかったか?」と一人の切長で凛々しく、灰茶色の髪をした男性が泉凪たちの元へとやって来た。
そんな彼を見た泉凪たちは「地星当主」と呟く。
「先程の矢は、当主が放たれた矢なんですよ。当主の神力が込められているので、一撃だったでしょう?」
若菜がそう言うと、地星当主と呼ばれるものは、泉凪たちを見ると「無事で何より。よく耐えた」と無表情だが褒める。
そんな中、千季一人が何故、若菜がいるのか分かっていない様子だったため、泉凪は千季に説明する。
「若菜が来てくれて、住人らの避難をしてくれたおかげで、私たちは鍾乳洞に戻る事ができたんだ。」
泉凪の話を聞いた千季は、若菜を見「ありがとう、助かったよ」と礼を言う。
そんな若菜は「礼を言われることは何も」と笑う。
その時、地星当主が「若菜、こっちに来てくれ」と呼ぶので、泉凪たちもそちらに向かう。
「当主、どうされました?」
「この妖を見てくれ」
地星当主に言われた若菜は、じっと巨大な妖を観察する。
そして、何かに気づき「これは……!」と眉を顰める。
「これは……例の人を襲い、体中の血を全て抜いていた妖……!」
若菜の言葉に、泉凪たちは眉を顰める。
例の変死体、体中の血を全て抜かれてたと言う事件の犯人は、捜査を続けていく上で、目撃情報もあり大体の特徴が分かっていた。
そして、今回の巨大な妖は、その特徴全てに当てはまっていたのだ。
「こんな所に隠れていたとはな」
地星当主は、そう言うと連れて来た部下に指示を出す。
その様子を見ていた泉凪は「まさか、例の変死体の犯人だったとは……びっくりだね」と呟く。
「通りで強いわけだ」
悠美の言葉に泉凪と千季は頷き、若菜は「皆さん、一旦、鍾乳洞の中から出ましょう。応急処置ですが、身体の傷を診てもらいましょう」と声をかける。
その時、ずっと隠れていた小物の妖が「俺のことも忘れないでくれよ!」と泉凪たちに言うと、何かを踏んだのか「いたっ!!」と声を上げる。
そんな小物の妖に「何をしているんだ」と呆れたように言い、小物の妖の足元を見る。
「これ……」
悠美はそう呟き、巨大な妖に目をやる。
(刺さっているよな……じゃあこれは一体……?)
悠美はそう心の中で呟きながら、小物の妖が踏んづけた矢を拾う。
まだ真新しく見える弓矢は、先程、地星当主が放ったものかと思ったが、地星当主が放った矢は一本だけで、その一本も巨大な妖に刺さったまま。
他の誰かが、放ったものかと考えるも、こんな鍾乳洞の中で弓を放つわけないかと、悠美が疑問に思っていると「悠美さん?」と若菜に声をかけられる。
「どうしました?」
「あぁ……いや、なんでもない」
悠美はそう言って、咄嗟に矢を背中に隠す。
若菜は「そうですか? 早く行きましょう」と先を歩く。
そんな若菜の後ろ姿を、悠美は何やら意味深に見つめるのだった。




