当主継承編 生きていけないからね
一人、鍾乳洞に残ると言う千季に「は? 何を言って……!」と驚く悠美の言葉を遮るように、千季は話を続ける。
「このまま、三人であの化け物を相手にしても、全員やられるだけだ。だから、応援を呼ばなければならない」
「けど、応援を呼びに行くために、全員で一度鍾乳洞から出ようにも、あの化け物の前を通らなければならない。そうなれば、あの化け物の攻撃は避けては通れない。だから、誰か一人、鍾乳洞に残り、化け物を惹きつける役が必要になってくる」
「火翠の若君と泉凪の神力は、あの化け物との相性は最悪だ。その点、僕の神力は水で、火に強い」
千季の言葉に黙って耳を傾ける、泉凪と悠美。
「それに、皇宮警備隊に応援を要請した所で、あの化け物には勝てない。僕たちよりも強い力を持つもの……各家の当主に手を借りなければならない」
「そのためには、一度、鍾乳洞の外に出て伝書鳥を飛ばさなければならないでしょ? 一応、住人たちの避難も必要だ。それらを一人で行うのは効率が悪すぎる」
「これらの事を含め、火に強い水の神力を持つ僕が残り、あの化け物を惹きつけるのが一番妥当だと思ったんだけど、どうかな?」
千季の言っていることは的をついている。
そのため、泉凪も悠美も言い返すことができなかった。
だが、泉凪は、無理だとわかっていても「それでも、やっぱり千季だけ残らすわけにはいかないよ」と千季の目を真っ直ぐ見て言う。
そんな泉凪の事を見つめ返し、真剣な表情で千季は言う。
「その気持ちはありがたいけど、僕は、泉凪に死んでほしくないんだ。泉凪に死なれたら、僕は生きていけないからね」
目を見開き驚く泉凪を見て、千季はふっと優しく微笑む。
その光景を、ただ黙って見ていた悠美は一つため息をつくと「泉凪行こう」と泉凪の手を引く。
泉凪は「悠美?」と戸惑いながら、悠美の顔を見ると、ただ真剣な表情を浮かべており、そんな悠美を見た泉凪は「……わかった」と頷く。
悠美には、千季の気持ちを理解した上で、残るとは言えなかったのだ。
誰が見ても、千季が一人で残ることは不利な状態。
だが、それでも残ると言う千季の覚悟を尊重しようと思ったのだ。
泉凪は千季の方を振り返り「まずいと思ったら、出てくるんだよ」と声をかけ、千季は微笑み頷く。
そして、そんな泉凪に続けるように、悠美は「死ぬなよ」と千季に言う。
まさか、悠美にそんな事を言われると思っても見なかった千季は、一瞬、驚いた表情を浮かべるも、すぐにふっと笑い「頑張るよ」と返す。
千季は、二人を鍾乳洞の外に出すため、巨大な妖の目の前に出て行き、巨大な妖を誘き寄せる。
その隙を見て、泉凪と悠美は出口に向かい走る。
そんな二人を見て千季は「頼んだよ、二人とも」と呟く。
その瞬間、地響きのような声を発しながら、千季に向かい炎を吐く巨大な妖。
その攻撃を避けながら、千季は神力で対抗して行く。
のはいいものの、力で言えば水の神力を操る千季の方が、上なはずだが、先ほどから全く巨大な妖には効いていないように見える。
「化け物すぎるでしょ……」
千季はそう呟き、ハッと吐き捨てるように笑うも、その表情はとても辛そうだ。
いくら、神力が高いとは言え、まだ座学を行い力をつけている途中の千季。
いつ、神力が尽きてもおかしくない状況だが、千季はそれでも巨大な妖に攻撃を続ける。
まだ、鍾乳洞内にいるはずの泉凪に危害を加わせないために。
その時、何かに足を持っていかれ、バランスを崩してしまう。
その瞬間、一気に巨大な妖は千季に目掛け、炎を吐く。
千季はまずいと思うも、避けきれずに、巨大な妖の炎が千季に直撃する。
◇
「泉凪、大丈夫か?」
何とか、鍾乳洞の外へと出てきた泉凪と悠美。
息を整える泉凪に、悠美はそう声をかける。
「私は大丈夫。それより、早く伝書鳥を飛ばさなければ」
泉凪がそう言って、懐から伝書鳥となる、鳥の形をした紙を取り出そうとした時だった。
「泉凪さんに、悠美さん?」
突如、耳馴染みのある声が聞こえて来た。
声のした方を見ると、何故かそこには他の場所を視察している筈の若菜がおり、泉凪たちの方へと歩いて来ていた。
若菜がいることに驚いた泉凪は「何で、ここにいるの?」と声をかける。
「地山の町で不可解な出来事が起こっていると言うのは耳にしていたのですが、中々、見に行くことができず、丁度今日、地山の町近くの視察になり、早く終わったので様子を見に来たのですが、櫻子さんと言う方に、泉凪さん達が先に鍾乳洞へと向かわれたと聞いてやって来たんです」
若菜の話に「そうだったんだ」と返す泉凪。
そんな泉凪たちに若菜は「そう言えば千季さんもいらっしゃったと思うのですが、どうされたんです?」と聞く。
そんな若菜に、泉凪は「若菜、手を貸して欲しいんだ」と言う。




