当主継承編 覚悟
「それで、他の件を隠すためと言っていたよね? その他の件って何かな?」
悠美と千季に続いて、泉凪が妖にそう問いかける。
だが、妖は「それは俺にもわかんね」と言う。
「わかんね?」
「うん。他の件を隠すためとは聞いたけど、それが何かは俺は知らない」
妖の言葉を聞いた泉凪は、悠美と千季に「どう思う?」と聞く。
「……まぁ、しらばっくれているとも考えられるが、あいつを見ている限り、何でもかんでも思った事を口にしているように思える」
悠美の意見に頷く泉凪と千季。
「まぁ、今はそれより。あの妖がアザをつけた張本人という事は」
「やるしかないね」
千季と泉凪の言葉に今度は悠美が頷く。
すると、三人は刀を鞘に戻し、その光景を見ていた妖は「んあ?」と不思議そうに見る。
「さくっと片付けるか」
悠美の言葉を合図に、妖を囲む様に辺り一面、炎に包まれる。
妖は「あっつ!!」と声を上げ、その場から逃げ出そうとするも、突如もがき苦しみ出す。
その様はまるで、水に溺れているかの様。
そんなもがき苦しむ、妖の体に何処からともなく現れたつた蔦が纏わりつき、妖の動きを止める。
完全に身動きが取れなくなった妖は、ようやく息を吸える様になったのか、目一杯空気を吸い「死ぬかと思った……」と蔦に縛られた状態で、その場に膝をつく。
「案外簡単に捕縛できたね」
泉凪たち三人の神力を使い、妖を捕縛したのはいいものの、三人の神力を使うまでもなかったと、泉凪たちは思う。
捕縛した妖の目の前に、泉凪はしゃがみ込み「皆んなのアザを消してもらおうか」と言う。
すると、妖は「俺は消し方を知らない。後一週間もあれば勝手に消えるさ。それに、あのアザには何の力もない」と不貞腐れた様に言う。
「嘘をついているんじゃないだろうな?」
「嘘じゃねーし!! 俺は人を襲えるほど強い力はねーもん!!」
何故か威張りながらそう言う妖。
そんな妖の言葉に「確かに……この妖に、強い力があるとは思えない」と千季は言う。
そして「そうとも」とまた、何故か威張る妖。
「何なんだこいつ」
「何だか拍子抜けしちゃうな」
悠美と泉凪はそう言い、妖を連れて鍾乳洞から出ようとした時だった。
「「っ……!!」」
三人は一斉に、身を構える。
先程よりも一段と濃い妖気が流れ、一瞬の隙も許されないような緊張感がその場に流れる。
「何だ……?」
思わず口元を塞ぎたくなる様な空気から、顔を顰めてそう呟く悠美。
その時、何処からともなくまるで地響きのような唸り声が聞こえてき、地面が揺れる。
「この感じ……嫌な予感がするね」
遠くの方から、こちらに向かってくるような足音が聞こえてくる。
その足音はまるで地鳴りのよう。
そして、その足音は直ぐそこまで近づいてき、ピタッと止む。
「あれは一体……?」
泉凪たちは、足音がしていた方を見て、目を見開き、まるで信じられないものでも目にしたかのような表情を浮かべる。
泉凪たちの視線の先には、先程の妖よりも遥かに濃く、強い妖気を放ち、泉凪たちよりも何倍もの大きさを持つ妖が、唸り声を上げながら立っていた。
三人は、その巨大な妖を目にするなり、一斉に神力を妖に向け放つ。
異常な妖気から、こちら側から攻撃をしなければまずいと、瞬時に判断したのだろう。
だが、神力者の中でも、上位の強さを持つ三人の最大の神力を持ってしても、巨大な妖はびくともせずにいる。
「おい! 小物の妖! あいつは一体なんなんだ!!」
焦りの混じった声で、先ほど捕らえた妖に悠美はそう聞くも、先ほど捕らえた妖も「俺も知らねーよ!!」と焦ったように言う。
「仲間じゃないのか」
「とてもじゃないけど、僕たちだけであれを倒すのは少し厳しいね」
そう言う悠美と千季の隣に立つ泉凪は、顔を顰め、巨大な妖を見上げる。
(妖術師を封じてから、かなりの強さを持つ妖は現れなくなっていたはずなのに……どうしてこんな鍾乳洞の奥に?)
その時、巨大な妖は唸り声を上げる。
かと思えば、口から紫色の炎を吐く。
「あまり息を吸うな!! あれは毒が混じった炎だ!!」
悠美の叫び声を聞いた千季は「そんな無茶な」と言いながら、泉凪たちを巨大な妖から死角になる場所へ連れて行く。
「まずいな。あいつが火を使うとなると、私の神力との相性は良くない」
悠美の言う通り、悠美は火の神力を扱い、巨大な妖も同じ火を使うため相性はあまり良くない。
悠美の言葉を聞いた千季は、目の前にいる泉凪を見つめる。
(泉凪の神力は植物。火との相性は最悪だ。このまま、巨大な妖と戦えば、確実に泉凪が危ない)
千季はグッと握りしめる拳に力を入れる。
「夕方頃になれば、櫻子さんが鍾乳洞へと様子を見に来る。その時に、まだ私たちが鍾乳洞から出て来ていなければ、皇宮警備隊に支援を要求してと頼んである。それまで、私たちで何とか持たせるしかないね」
泉凪の言葉に悠美が頷き、二人はもう一度、巨大な妖の前に行こうとした時だった。
「待って」
千季はそう言って、二人のことを止めたのだ。
千季に呼び止められ、泉凪は「どうしたの?」と尋ねる。
すると、千季はふっと笑みを浮かべ「ここには僕が残るから、泉凪と火翠の若君は外に出て、皇宮に応援を要請して」と言う。




