当主継承編 招かれる者たち
「では、夕方頃もう一度鍾乳洞へと様子を見に来ますね」
鍾乳洞の入り口手前までやって来た泉凪たちは、櫻子を鍾乳洞へと近づけないため、一旦、戻るよう提案する。
夕方頃まで、自分たちが出て来なかったら、皇宮へと応援を要請してくれと頼んだ。
「私たちの名前を出せば、直ぐに通るはずだよ」
「はい……どうかお気をつけて……!」
櫻子は力強く頷くと、不安気な表情を浮かべながら、来た道を戻って行く。
「さてと……ここが、鍾乳洞の入り口なわけだが……物凄い妖気だな。一般人ならともかく、霊力を持つ警備隊が分からぬはずないのだがな」
鍾乳洞の入り口へと立つと、思わず目を顰めてしまうほど気味の悪い空気が流れていた。
霊力とは、神力とは違い、一般の者が鍛えれば身につけられる力。
鍛えれば身につけられると言っても、皆が皆、身につけられるわけではない。
各家の警備隊に皇宮警備隊、巫女や神官、そして各神力者たちの従者がこの霊力を持っており、身につけるためには、霊力を持つ者や皇宮や各家に認められなければならないのだ。
霊力を身につけた者は、刀に霊力を込めたり、治癒や守りといった力を使えることができる。
もちろん、妖気などを感知することもできるわけだが、霊力を持ち得ない櫻子たちでさえ鍾乳洞から流れる妖気を感じ取っているのに、警備隊は何も変わった様子はないと、捜査を切り上げて来たのだ。
真顔で「どうやらうちの警備隊には、帰ったらお咎めが必要らしいな」と言う悠美。
適当な捜査をした警備隊らに余程腹を立てているらしい。
そんな悠美に千季は「ほどほどにね」と言うも、こちらも真顔で、腹を立てているのがわかる。
「……櫻子さんの話によると、何重もの声が聞こえて来て、引き寄せられるように鍾乳洞へと一緒にいた人達が入ろうとしていたって話だけど」
泉凪はそう言うと、鍾乳洞に耳を傾ける。
だが、中からは風が流れる音しかせず、櫻子が言っていた声は聞こえて来ない。
「眠っているのか?」
「人を襲っておいて、呑気なものだよ」
先程まで怒りを露わにしていた悠美と千季だが、今はけろりとし、冗談を言っている。
「悠美と千季はどう思う? あのアザのようなものについて」
ふと、泉凪は二人にそう尋ねる。
櫻子に鍾乳洞へと案内してもらう前に、泉凪たちはアザができてしまった者たちのとこへ行き、アザの様子を確認していた。
「アザのようなものからは、妖気などは感じ取れなかったが……櫻子さんが言っていた、一番初めに被害に遭ったと言う観光客の話が気になるな」
悠美の話に頷く泉凪と千季。
「恐らく、亡くなったと言うおじいさんは、持病のせいだと思う。ただ、体調が悪くなったと言うその観光客は実際見ていないから分からないけど、一番初めに被害に遭っているから強い妖気に当てられたか、もしくは嘘をついているか」
「まぁ、調べてみなければ分からないがな」
悠美がそう返事をした時だった。
「コッチニオイデ」
「「っ……!!」」
鍾乳洞の中から、櫻子が言っていたように、何重もの声が聞こえて来たのだ。
「どうやら、招かれているようだね」
「ならば、快く受け入れなければな」
「断るのは失礼だからね」
泉凪たちは、そう言うと不気味な声が聞こえる鍾乳洞の中へと、足を踏み入れるのだった。




