第一章 月花家の亡霊ー2ー
その場にいる誰もが気になっていたであろう、狐の面の男の素性。
狐の面の男は「この子の師で、月花家の遠縁の者、とでも言いましょうか」と自身の正体についてはぐらかす。
「遠縁、か。ひとまずそう言うことにしておこう」
「ありがとうございます、皇帝陛下」
そう言って狐の面の男は胸に手を当て、軽くお辞儀をする。
「今日からその子を十七人目の神力を持ち得る者とし、皇宮にて五年間、作法、礼儀、歴史その他諸々、次期皇帝候補として学んでもらう」
神力を持つものは、自動的に次期皇帝候補となるので、神力を持つと公表されたその日から皇宮入りし、約五年間、作法や政治などについて学ぶことになっている。
だが、皇帝の意見を聞き、またもや大臣らは騒つきだす。
「皇帝陛下!! 本当にこの者を次期皇帝候補として向かい入れるおつもりですか!?」
「いくら神力を持つ子と言え、前例のない女子の次期皇帝候補など、皆が認めるかどうか……」
「やはり、国を引っ張って行くには、男子でなければ」と口を揃え、女子の皇宮入りを反対する。
皇帝の側に支える者は「陛下、ひとまず今日は、一度持ち帰り検討なされた方が」と耳打ちをするも、皇帝は何も返さず女子の事をじっと見ている。
すると、大臣らの言葉を聞き狐の面の男は突如声を上げ笑い出す。
「な、何を笑っているんだ?」とまるで奇妙な者でも見るかの様な表情を浮かべる大臣たち。
「いえ……ただ、この国の大臣らが揃いも揃ってその様な考えでは、この国の未来が思いやられるなと」
狐の面の男にそう言われ、顔を真っ赤にし怒りを露わにする大臣らは「代々、男子が神力を持ち、皇帝になるのは神守国始まって以来の慣わしだ! それを変えようとするとは、神に背くのも同然のことだ!!」と言い返す。
「神に背くね。神力は神々からの贈り物、すなわち神々に選ばれた者しか手に入れられない力だ。男子であれ女子であれ神々に選ばれた事には変わりない。それを否定するとはそれこそ神々に背いた事になるが……その事を自覚した上で発言しているのか?」
これまでのどこか掴みどころがないものの、落ち着いた雰囲気から一変し、皇帝陛下、いや、それ以上の圧を感じる程の空気を纏い面の目の部分からは鋭い眼差しが窺える。
その圧からの恐怖心と、真っ当な事を言われ、大臣らは口をつぐむ。
そんな中、一人の神官は「あ、あの方は……!」と何故か、狐の面の男を見て驚いた表情を浮かべており、皇帝も同じ様な表情を浮かべている。
「……彼の言う通り、神力を持ち生まれた者はどんな者であろうと、神々に選ばれた者。それに逆らうことは誰にもできない」
そう言って皇帝は玉座から立ち上がり、神力を持つ子の元へ近づく。
そして、神力を持つ子の目の前までくると綺麗な濃い桔梗色の頭に手を優しく置き「大きくなったな……生きていてくれて嬉しいよ」と他のものに聞こえないくらいの穏やかな声で微笑みかける。
神力を持つ子は、不思議そうに目をぱちっとさせ皇帝を見つめ、その隣で面の男は横目でただその光景を見つめていた。
「改めて、この者を十七人目の神力を持ち得るものとし、そして次期皇帝候補とし皇宮へと向かい入れる。異論は認めん、良いな?」
皇帝陛下の言葉に、先ほどまで反対していた者たちは、胸に手を当て「皇帝陛下の意のままに」と頭を下げる。
「早速、今日から皇宮入りをしてもらうが、心の準備は良いか?」
皇帝陛下にそう聞かれ、女子は面の男の手をぎゅっと握る。
面の男は宥める様に、女子に「大丈夫だ。何も心配することはない。行っておいで」と優しく声をかける。
「師匠の言う通り、ここにいる間は何があろうと私がそなたのことを守って見せよう。約束する。」
「そなたの名前を教えてくれるか?」
女子は頷き答える。
「月花、泉凪」
こうして、歴代初となる女子の次期皇帝候補が誕生し、その事は国中で話題となり、良くも悪くも国の歴史が一つ変わった瞬間となった。




