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皇宮の花嵐  作者: 透明
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当主継承編 火翠の若君が得意だよ

 


 「あ、泉凪……!」




 泉凪が座学室へ行くと、先に来ていた心大が泉凪を見るなり泉凪の名前を呼び、駆け寄って来る。


 そんな心大の後に続き、千季と文月も泉凪の元にやって来る。



 心大は、髪が短くなった泉凪を見て「髪……」と呟く。




 実の兄が、自身と一番仲のいい泉凪の髪を切ってしまった事に、罪悪感を感じている心大。


 そんな心大の心情を汲み取ったのか、泉凪は「気にしないで」と言うと「短い髪も似合ってるでしょ?」と笑って見せる。


 

 心大は、泣きそうになるのをギュッと口をつぐみ抑えて「似合ってるよ……!」と頷く。



 泉凪が来るまで、ずっと青ざめた表情を浮かべていた心大を心配していた、千季と文月は顔を見合わせ笑い合う。


 そして、泉凪に「泉凪、とても似合っているよ」「綺麗だよ」とそれぞれ口にする。




 「ねぇ? 火翠の若君もそう思わない?」




 唐突に、泉凪の後ろを見てそう声をかける千季。


 泉凪が後ろを振り返ると、そこには悠美が立っていた。



 泉凪はじっと悠美のことを見つめ、悠美も見つめ返す。


 そして「……短い髪も似合うとは、さすが泉凪だな」と悠美は笑う。



 悠美にそう褒められた泉凪は、ハハっと笑みを浮かべ「ありがとう」と答える。




 「泉凪、中に入ろ! 見せたいものがあるんだ」




 心大はそう言って、泉凪の手を引き、泉凪は「わかったわかった」と眉を顰め笑う。


 そんな二人の後を、文月は「朝から元気だね、心大は」とついて行く。




 「……地星の一の若君、一ヶ月の謹慎処分になったらしいね。その上、神守国の歴史が書かれた書物を一言一句、一ヶ月間の間書き写さなければならないって。考えただけでも目眩がするよ」




 神守国の歴史が書かれた書物は、殿枕とのまくらに勝るほどの分厚さがあり、それを一ヶ月間毎日写さなければならないのは、気が遠くなるような作業だ。



 千季は「それでも足りないくらいだけどね」と笑う。




 「まぁな」


 「風の噂によると、何処かの火神の力を持つものが、地星の一の若君の事を燃やしたとか?」




 そうニコニコと笑みを浮かべる千季に悠美は「燃やしてはいない。燃やそうとしただけだ」としれっと言う。


 そんな悠美に千季は「同じでしょ」とつっこむ。




 「燃やそうとしただけで、燃やしてはいない。幻覚を見せただけだ」


 「ふーん」


 「何だ?」




 何か言いたそうな千季に、悠美は怪訝そうな表情を浮かべるも、千季は「別に」と笑みを浮かべ、座学室の中に入って行く。


 そんな千季を不思議そうに見る悠美は、千季が小声で「本当に燃やしちゃえば良かったのに、あんな奴」と呟いていた事に気がつかなかった。







 騒動があった日から一週間が経った座学の日。


 その日は、剣の稽古を行なっており、霊力を持つ従者達も刀を扱うため、合同で、それぞれ手合わせをしていた。




 「……勝者、風音様!」




 一人の神官はそう言って、白色の旗をあげる。


 泉凪と文月が手合わせをしており、文月が先に泉凪から一本取ったのだ。




 「やっぱり、文月は強いね」




 手合わせを終えた泉凪は、息を整え、文月のことを褒める。


 文月は、ハハッと笑みを浮かべる。


 その姿は、いつもの気を張り大人びた表情とは違い、年相応な青年のように見える。



 文月は剣の稽古が一番好きらしく、いつも剣の稽古の時は生き生きとしている。




 「泉凪、お疲れ様」




 花都は戻って来た泉凪にそう声をかけ、手拭いを渡し、泉凪は「ありがとう」と受け取る。


 泉凪は手拭いで汗を拭く。



 すると、何処からともなく黄色い声が聞こえて来る。


 声がする方を見てみると、数人の宮女が泉凪を見て頬を赤らめている。




 「……何だか最近、こう言うことが増えたな」




 泉凪は少し困ったようにそう呟くのを聞き、花都は笑う。



 前から泉凪を見て、黄色い歓声を上げる宮女はいたが、泉凪の髪が短くなってから、更に黄色い歓声を上げる宮女が増えたのだ。


 だが、泉凪は対応に慣れていないので戸惑っていると「こう言う時の対応は、火翠の若君が得意だよ」と言う声がし、泉凪の肩に手が置かれる。



 見上げると千季がおり、後ろにいる悠美に「ね?」と笑みを浮かべる。


 千季に振られた悠美は「やらんぞ」と断ろうとするも、泉凪に期待の眼差しを向けられ、断れない状況になる。



 悠美は一つ咳払いをし、宮女たちに煌びやかな笑みを向ける。


 悠美に笑み向けられた宮女らは、顔を真っ赤にし、黄色い歓声を上げその場から走って行く。




 「ね? 言ったでしょ?」


 「本当だね。凄いね、悠美」




 不覚にも泉凪に褒められ、喜ばしい気持ちと、千季に言われたことへの不服な気持ちが入り混じり、何とも言えない表情を悠美は浮かべるのだった。

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