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皇宮の花嵐  作者: 透明
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当主継承編 羨ましく思うんだ



 医務室にて、泉凪は医者に怪我をしていないか診てもらっていた。


 医者は「どこも怪我はしておられないようです」と泉凪達に告げ「大神官様にご報告をして参りますので、月花様はごゆっくりして行かれてくださいね」と医務室から出て行く。



 そんな医者を見送り、花都は椅子に座る泉凪の髪に触れ「綺麗な髪だったのに……」と悲しそうな表情を浮かべる。


 その手は震えており、手から花都の感情が伝わって来るようだった。




 「……師匠や郷の皆んなもよく褒めてくれていたよね。父に似て、とても美しい桔梗色の髪だと」




 そう笑みを浮かべる泉凪。


 そんな泉凪を眉を八の字にし、少し笑みを浮かべ「そうだったね」と頷く花都。




 「師匠達が聞いたらきっと、怒られちゃうね……」


 「……っ!」


 「……けど、思ったより辛いね」




 泉凪の話し声が震えていることに花都は気付き、目を見開き驚く。


 花都が泉凪が泣いているのを見たのは、五歳の時、初めて皇宮入りをする前の日、不安で師匠に泣きついていたのが最後だったからだ。



 皇宮入りしてからは、泉凪は一切、人前では泣かなくなった。


 初の女性の神力者と言うことで、沢山、辛いことがあっても、常に気丈に振る舞って来た泉凪。


 そんな彼女が声を震わせている。



 表情は、横を向き見えないが、恐らく泣いているのだろう。


 だが、髪を切られたと言うだけで泣いているのではないのだと、花都は思う。



 これまで我慢してきた、辛かった感情が、髪が切られた事により、泉凪の中にある、ギリギリで保っていた感情の糸が切れ、溢れ出して来たのだろう。


 心とは、そう言った少しのことがきっかけで、崩れたりする物だ。


 頑張って来た人なら尚更。



 そんな泉凪の事を花都は抱きしめようと、手を伸ばすも、それは直ぐに引っ込まれた。




 これまで、誰に泣きつくわけでもなく、一人で神力者として耐えて来た泉凪はきっと、慰めも励ましも必要としていないと、そして、ここで軽々しく抱きしめる事などは、失礼な事だと、ずっと一緒にいた花都は思ったのだ。




 花都は、ただ静かに「……そうだね」と泉凪の気持ちに寄り添い、それ以上は何も言わずに、泉凪が泣き止むまで、側にいると、心の中で泉凪に告げたのだ。







 「……心温。行くぞ」




 泉凪の様子を見に、医務室へとやって来ていた悠美と心温。


 だが、泉凪と花都が話しているのを聞き、中には入らずに悠美は帰ろうとする。



 そんな悠美に、心温は黙って着いて行く。



 医務室から暫く歩いた所で、徐に悠美は心温に「なぁ、心温」と話しかける。




 「どうした?」


 「どれ程親しくなれば、泉凪が辛い時に辛いと言ってもらえる存在になれるのだろうか」




 悠美の言葉を聞き、心温は足を止める。


 そのことに気づいた悠美も足を止め、心温の方を振り返る。



 そして、心温を真っ直ぐ見る表情は、悲しそうに笑う。




 「座学室を出る前、泉凪は私に大丈夫と言っていた。だが、それは本心では無いことは分かった。」


 「私が泉凪にとって、まだ、心の内を話せる相手では無いと言うことは、重々承知している。だが……泉凪が辛い時や、泣きたい時、それらを受け止め隣に立っている者は他の誰かではなく、私ならいいのにと思うんだ」


 「一人でも、辛いと本音を話せる相手が泉凪にいることは喜ばしいことだ。これは本心だ。だが、やはりそれが私では無い事が悔やしく思う。そして、そんな本音を話してもらえる彼が……羨ましく思うんだ」




 悠美は「泉凪が辛い時にこう思うのは、相応しくないかもしれないが」と自嘲気味に笑う。


 そんな悠美を、心温は真っ直ぐ見つめ「そんな事ない」と否定する。




 「それくらい、月花様のことが大切なんだ。きっとすぐに、その気持ちは月花様に伝わるよ。誰かを思う気持ちは、相手にちゃんと伝わるものなんだ」




 心温の言葉を聞き、悠美はハッとする。


 そして、少し笑みを浮かべ「……泉凪と同じことを」と呟く。


 心温は、聞こえなかったらしく「今なんて」と聞き返そうとするが、悠美は体を前に向け「行くぞ、心温」と歩き出す。




 「えぇ? 急だなぁ」




 心温は、もういいのか? と思いながらも、笑みを浮かべ「早く」と自身を呼ぶ悠美の元へ駆け寄る。

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