当主継承編 地星の一の若君
翌日の座学の時間。
座学室へと向かう悠美と心温、丁度、先を歩く花都を見つけ、心温は「あれ? 花都さんじゃないか? おはようございます」と声をかける。
心温の声に気づいた花都は、振り返ると、左胸に手を当て「火翠の若様にご挨拶申し上げます。」とお辞儀をし、心温にも「心温さんもおはようございます」と挨拶をする。
そんな花都に「あぁ、おはよう」と辺りをキョロキョロとしながら返事をする悠美に、花都は「どうかされましたか?」と不思議そうにする。
それに対し、心温が「あぁ……」と眉を顰め笑う。
「月花様は一緒じゃないんですか?」
心温の言葉に、花都は「あぁ、泉凪様でしたら、先に座学室に行かれていますよ。私は、泉凪様の忘れ物を取りに行っていた所なんです」と説明する。
「そうだったんですね。では、座学室まで一緒に行きましょう。ねぇ? 悠美様」
心温は、泉凪の従者である花都と、仲良くしておくべきと思い、悠美にそう提案する。
だが、そんな意図は全く汲み取っていない優美は「すぐそこだろ。まぁ別に構わないが」と返す。
泉凪に対しての態度と、他の人に対しての態度が、あまりにも違う悠美を見て心温は(月花様以外にも、もう少し興味を持つよう後で言わないとな……)と心の中でため息をつく。
それから、三人で座学室へと向かっていた時だった。
座学室の方から二人の従者が走ってきたと思えば「大神官をお呼びしなければ、月花様が……!」と言う声が聞こえてきた。
その言葉に、悠美たちは反応し「急ぐぞ」と座学室へと急ぐ。
「あ、花都さん。お待ちしておりましたよ」
座学室へと行くと、ちょうど座学室から出ようとしていた従者が、花都を見るなり焦った様子でそう言う。
座学室内は何処か騒ついており、悠美は中に入る。
「泉凪!」
悠美が、そう名前を呼ぶと人だかりがはけ、泉凪の姿が見えた。
「……っ!!」
だが、泉凪の姿を見た悠美は、動きを止め酷く驚いた表情を浮かべる。
そんな悠美の後に続け、部屋に入ってきた花都と心音は、立ち止まる悠美を見てどうしたのかと、優美の視線の先を見る。
「そんな……!」
「泉凪……!!」
泉凪の姿を見て、心温は驚き、花都は泉凪の元に駆け寄る。
そして「どうしたんだ? その髪型!! 何があったの!?」と声をあげ言う。
花都の言う通り、長く艶のある綺麗だった泉凪の髪は、左側だけ短くなっていたのだ。
花都の問いに、泉凪の隣に居た千季が「……地星の一の若君がやったんだ」と静かに答える。
一見、冷静に思えるが、酷く腹を立てているのが伝わってくる。
「地星様が……? 一体、何があったんですか?」
花都の問いに、今度は文月が冷静に答える。
「君たちが来る、ほんの少し前のことだよ」
◇
『いい加減にしろ!!』
突如、座学室内にそのような怒鳴り声が、響き渡ったかと思えば、物が倒れる音がした。
何事かと見てみれば、激怒する晃が、自身の従者のことをその場に押し倒し、晃の従者がその場に倒れ込んでいたのだ。
その事に気づいた泉凪たちは『やめなよ』と止めに入る。
『地星の一の若君。この間からずっと、何を苛ついているの?』
泉凪にそう聞かれた晃は『お前には関係ないだろ。邪魔するな』と怒る。
そんな晃に『君は何度問題を起こせば気が済むんだい? いい加減にしたらどうだ?』と文月は言う。
『うるせぇ!! 俺の従者に何しようが、お前らに関係ねぇだろ!! もうお前は、俺の従者クビだ!! 二度と俺の前に姿を現すなよ!!』
そう言う晃に、晃の従者は『ままま、待ってください! 晃様……!!』としがみつくも、晃はそれを振り払う。
その勢いで、晃の従者は飛ばされてしまう。
そんな従者に『よくも、この俺の足にしがみついたな!! 無礼だ!!』と神力を使い、従者にぶつけようとする。
だが、泉凪が従者のことを身を挺して守り、従者に怪我はなかった。
が、『い、泉凪……髪が……』と言う文月の声に、皆、泉凪を見てざわつきだす。
何故なら、泉凪の左側の髪が短くなっていたからだ。
恐らく、さっきの晃の神力があたり、切れてしまったのだろう。
『お前……!』
そう言い、晃の襟元を掴む千季は、普段の飄々とし穏やかな印象から一変し、迫力があり、思わず息を呑んでしまうほど激怒しており、まるで別人のように思えるほど。
そんな千季に、晃は少し怯える。
その時、師範が座学室にやってき、離すよう言われた千季は、晃を床に投げるように離し、晃はその場に倒れ込む。
それから、晃は師範と別室に行き、現在に戻る。




