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皇宮の花嵐  作者: 透明
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当主継承編 幸せに



「結局、心温に聞いてはみたものの、何も分からなかったな」




 泉凪は、千季に言われた通り、心温に悠美の事を聞いてみたが、何も教えてはくれなかった。


 まぁ、主人の事を他人にペラペラと話すわけないか、と思い悠美の調子が良くなるまで見守ろう。と思いながら、皇宮内を歩いていた時だった。



 前から歩いて来た人物をみて、泉凪は足を止め「悠美」と声をかける。


 同じく泉凪に気づいた悠美は、足を止め「あぁ、泉凪か」と笑みを浮かべるが、何処か元気がないように見える。




 「花束……? 何処かに行くの?」




 泉凪の言うように、悠美は手に花束を持っていた。


 悠美は一瞬、何か考えるような素振りを見せると「……母上の墓参りにな」と言う。




 「母上……皇后陛下の。そう言えば、もう直ぐ皇后陛下の命日だったね」




 泉凪はそう言うと、悠美に「もしよければ何だけど、私も手を合わせに行ってもいいかな?」と聞く。


 悠美は「あぁ……構わないが」と言い、泉凪を皇后の石碑がある場所へと案内する。




 皇后の石碑の前に行き、手を合わせる泉凪。


 そんな泉凪を優美は見つめる。




 「……皇后陛下には、幼い頃皇宮入りをしていた時に何度かお会いしたことがあったけれど、侍女や官人たちにも平等に接し、明るくて陽だまりのような人だったな」




 唐突に、懐かしむように微笑みながら、そう思い出を話す泉凪。


 泉凪の言葉に「……あぁ、そうだったな」と悠美は曖昧な返事を返す。




 そんな悠美を見つめる泉凪は「前にも聞いたけど、何かあった?」と優しく問いかける。


 悠美は「何もない」と言おうとしたが、真っ直ぐ見つめてくる泉凪を見て、気がつくと違う事を話していた。




 「当主になれば、多くの人と触れ合うことになる。その多くの人々は、それぞれ身分も違えば、育った場所や考え方も違う。特に私は、生まれてから今まで、皇宮の中の人間やその周りの人間としか関わってこなかった」


 「そんな人間が、当主になり民の上に立った時、皆を幸せにできることができるのだろうか」


 「皆が幸せと言う言葉を口にした時、それは当主である私に逆らえぬから言った言葉だと思うことなく、心の底から出た言葉だと思えるのだろうか。」


 「私は……知らずうちに、誰かのことを私が神力者で、皇帝の息子と言う事で傷つけていないか、そう思うと息ができなくなるほど、恐怖と罪悪感に押しつぶされそうになるんだ」




 少し息が荒くなり、冷や汗をかき、表情は酷く怯え青ざめている。


 そんな悠美の背中を泉凪はさする。



 悠美の呼吸はだんだんと落ち着いてゆき、顔色もマシになる。




 「……落ち着いた?」


 「あぁ……すまない。情けないところを見せた」




 そう謝罪をする悠美を、泉凪はじっと見つめる。


 そして、ゆっくり口を開く。




 「さっき悠美が、皆んなを幸せにできるかと言っていたけど、それは分からない。」




 泉凪の言葉を聞き、悠美は驚くも、黙って泉凪の話に耳を傾ける。




 「これも悠美が言っていた事だけど、それぞれ、育った場所や環境、身分が違う。人が多ければ多いほど、色々な考えが出てくる。そんな中で、全員が完璧に幸せになれるようにするのは少し難しい事だ」


 「誰かにとってそれが幸せな事でも、誰かにとってそれは幸せではないかもしれない。そんな事を言っていたらキリがないのかもしれないけれどね」


 「ただ、どんな立場の人にも、どんな考えの人にも、共通することがある」


 「それは、感情を持ち、生きているということだ。面白いことがあれば笑うし、良いことがあれば喜ぶ」


 「同じように、虐げられれば傷つくし、大切な人が亡くなれば悲しむ」


 「男だろうが女だろうが、大人だろうが子どもだろうが、身分が高かろうが低かろうが、それは変わらない。」


 「そしてそれは、どんな者であれ、尊重しなければならない事だ」


 「どんな考えや結果に行き着こうとも、その事を常に忘れずに考え、行動すれば自ずと、皆んなを幸せにできるんじゃないかな」




 泉凪はそう思いを悠美に告げると「まぁ、あくまで私の意見だけどね」と笑う。


 そんな泉凪を見て、悠美は、かつての幼い泉凪の笑顔が重なったように見えた。

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