当主継承編 何かあったのか?
「──例の、変死体の件ですが、やはり他の五件と同様、体の血が全て抜かれております」
執務室にやって来た医者は、皇帝の前に立ち、眉を顰め説明する。
医者の話を聞いた皇帝は「そうか……」とため息混じりに呟く。
約二週間ほど前から、体の血が全て抜かれた変死体が、神守国の各地で五件も確認されており、現在、犯人を探している最中だった。
そんな中、またしても火翠の郷付近で、一人の変死体が発見され、確認したところ、前件と同様血が全て抜かれていたのだ。
「これで六件目……気味が悪いですね」
皇帝の側で、顔を顰めそう言う仁柊。
そんな仁柊の言葉に皇帝は頷き「……とてもじゃないが、人間がやったとは思えんな」と顎に手をやり言う。
「に、人間がやったと思えないって、じゃあ一体何が……?」
怯えたように、皇帝に問いかける医者。
そんな医者に皇帝は真剣な表情を浮かべ言う。
「妖。だろうな」
「妖……」
かつての神守国、まだ、荒乱国と呼ばれていた時、一人の妖術師がいた事により、国中に妖が溢れかえっていた。
だが、神力者らの先祖が、その妖術師を封じたおかげで、妖らの力は弱まり、国中に溢れかえっていた妖らはほとんど見なくなり、妖が関わった事件も少なくなっていた。
そんな中、続けて六件もの、それも体の血が全て抜かれると言う事件が立て続けに起きた。
人間が体の血を全て抜いたにしては、遺体の傷は綺麗すぎるらしい。
その事を踏まえると、考えたくはないが、妖の仕業でまず間違いないだろう。
仁柊は「ここまで大きな事件は数千年の間起きていなかったのに……一体何故、今になって?」と顎に手をやり考える。
「今回、変死体が発見されたのは、火翠の郷付近だったな……」
皇帝はそう言うと、黙り込み、何かを考え込む。
そんな皇帝に仁柊は「陛下? どうなさいました?」と尋ねる。
だが、皇帝はニコッと笑みを浮かべ「何でもない」と告げるも(まさかな……)と顔を曇らせる。
◇
「……心温。私に何か用があるのか?」
「うぇっ!?」
火翠宮、悠美の部屋の中。
先程から書類を目に通す悠美を、チラチラと見ていた心温。
そんな心温に気づいていた悠美は、書類に目を通したまま、未だチラチラと見てくる心温にそう尋ねる。
まさか、見ていたことがバレていたとは思っていなかった心温は、悠美にそう聞かれ、思わず変な声をあげ驚く。
そんな心温のことを見て悠美は「まさか、バレてないとでも思っていたのか?」と呆れた表情を浮かべる。
「何か言いたいことがあるのなら、言えばいいじゃないか。チラチラと鬱陶しい」
悠美にそう言われ、心温は「そ、そうだな」と頷く。
そして、意を決したように悠美に尋ねる。
「……視察の時、月花様と何かあったのか?」
心温にそう聞かれ、悠美は「何かって?」と聞き返す。
「今まで、月花様とは距離があったが、視察から帰って来たら何だか、距離が縮まっている気がしてだな。そ、それにお互い名前で呼び合っているし……何かあったのかなーと……」
何故か辿々しく悠美にそう尋ねる心温。
そんな心温に悠美は「神力者同士、名前で呼び合うのは普通のことだろ?」と平然と言う。
悠美にそう言われ、心温は「ま、まぁ、そうだが……」と返事をする。
「視察に行く前、月花様の前ではうまく話せないと言っていたから、少し驚いてな」
そうははっと笑う心温。
そんな心温に悠美は「まぁ何かあったと言えば、泉凪の事が好きだと自覚した事だな」としれっと言い、心温は「そうそう、好きだ……って、えぇ!?」と驚く。
「い、い、今、なんて言った!?」
「だから、泉凪の事が好きだと言ったんだ。というか、何でそんなに驚いているんだ? 分かってて聞いたんじゃないのか?」
「わ、分かるわけないだろ……! もしかしてそうかなと思ったが、まさか、好きって言うとは……!」
そう言って何故か、顔を真っ赤にする心温。
そんな心温に悠美は「何故、お前が顔を赤くするんだ」と眉を顰める。
そして、悠美は「まぁ、そう言うわけだ。」と、止めていた書類を見るのを再開させる。
そんな悠美を見て「そうか……そうなのか……」と何処か感慨深そうに呟く心温は「悠美」と悠美の名前を呼び、悠美は顔をあげ心温を見る。
心温は「応援するからな」と言い、笑うと、悠美は「あぁ」と柔らかく笑う。
その時、コンコンっと扉を叩く音がし、心温は「はい」と扉を開ける。
「あぁ、大神官様」
悠美の部屋にやって来たのは、藍良で、心温は藍良を部屋の中に招く。




