当主継承編 呼んでくれ
「探しに来てくれてありがとう。危うく、首を締め付けられて気を失うところだったよ」
泉凪はいつもの飄々とした様子で、悠美に探しに来てくれたことのお礼を言う。
「あ、あぁ……怪我はないか?」
「大丈夫だよ」
「良かった」
そう言って安堵した様子で笑う悠美。
そんな悠美を見て、泉凪は先程、悠美が探しに来てくれた時のことを思い出す。
いつも笑みを浮かべ、どんな時も堂々とした姿しか他人に見せていなかった悠美が、汗を掻き、声を震わせ、焦った様子で探しに来てくれたのかと思うと、何故だか胸の辺りがギュッとなる感覚がした。
胸に手を当て不思議そうにしている泉凪に、悠美は「どうした?」と尋ねる。
「いや……それより、行方不明になった人たちを探さないと」
そう言って部屋から出ようとする泉凪。
そんな泉凪を「待ってくれ……!」と悠美は呼び止める。
悠美に呼び止められ「どうかした?」と振り返る泉凪。
「っ……!!」
泉凪が振り返った事により、泉凪と悠美の距離が近くなり、ぶつかりそうになってしまう。
あまりの近さに、悠美も泉凪も目を見開き驚いた表情を浮かべている。
「すま、ない……」
泉凪はそう言って、悠美から離れようとした。
だが、悠美に手首を軽く掴まれ、動きを止める。
泉凪が「どうしたの?」と尋ねようとした時、悠美の「……先程、言ったことはどう言う意味だ?」と言う言葉に遮られてしまう。
何のことを言っているのか分からない泉凪は「先程言ったこと、とは?」と聞き返す。
悠美は少し間を開け、ゆっくりと口を開く。
「〝これは私のだ〟と言っただろ。あれはどう言う意味だ?」
真っ直ぐ、泉凪の瞳を見つめ、真剣な様子でそう言う悠美。
あまりの真っ直ぐさに泉凪は、息をするのを一瞬、忘れてしまう。
だが、泉凪はすぐにいつもの調子に戻り「何だ、その事か」と言う。
「あぁ言う事で、一瞬でも隙を作れるかと思って言った事だったんだが……」
そうあっけらかんと言う泉凪に、悠美は「隙をつく……」と呆然とする。
「そしたら、隙どころか邪気が抜けたものだから、驚いたよ」
そう、ははっと笑みを浮かべる泉凪。
そんな泉凪を見て、悠美は「はぁーー……」とその場に力無くしゃがみ込む。
そして、顔を手で覆い「そうだよな……」と一人呟く。
いきなりしゃがみ込む悠美を見て、泉凪は「どうしたの?」と驚く。
「もしかして……悠美はそう言うの気にするタイプだった?」
「そうとは知らず、すまない」と申し訳なさそうに謝る泉凪。
全くもって、悠美の心情を理解していない泉凪。
そんな泉凪に悠美は「いや、いいんだ。私の問題だから、気にするな」と顔を手で隠したまま、もう片方の手を泉凪に向ける。
その時、ある事に気づき悠美は顔をあげる。
「今、悠美って……」
「あぁ。呼んだよ」
そう言って泉凪は「さっき、私のこと泉凪と呼んでいたから、おあいこでしょ?」と笑う。
すると、悠美は「……いっかい」と何かを呟く。
「なんて……」
「もう一回、呼んでくれ」
そう泉凪を見上げる様に見つめ言う悠美。
そんな悠美を見て一瞬固まるも、すぐに吹き出し笑みを浮かべる泉凪。
「いつも、皇宮で見る大人で余裕がある火翠の若君とは打って変わり、今の若君はまるで幼子の様だ」
「呼んでくれないのか? 泉凪」
もう一度、名前を呼んでくれと言う悠美。
そんな悠美に泉凪は優しく笑い、優しい声音で呼ぶ。
「わかったよ、悠美」




