当主継承編 御殿の女性
彩の街へとつき、叶いの館は山の奥深くにあり、牛車では行けないため牛車からおり、叶いの館まで徒歩で目指す泉凪たち。
その道中、叶いの館について話をする。
「結局、五年前に叶いの館で駆け落ちをしようとしていた恋人たちは、会うことはなかったのだろう? なのに何故、叶いの館に行けば永遠に結ばれるという噂が広まったんだろうな」
ふと疑問に思った事を、悠美は泉凪に尋ねる。
泉凪は、袖に両腕を入れ「恐らくだけど……」と言葉を続ける。
「もし、本当に女性が亡くなっていたのなら、怨霊になっている可能性が高い。その怨霊になってしまった女性が人を呼び寄せるために、そのような噂を流しているのかもしれないね」
泉凪の言葉に悠美は頷く。
「ただ、疑問なのは何故、男女でないと入れないのか。だけど……」
「恋人を待っているのなら、男性だけを招き入れるはずだが」
今度は、悠美の言葉に泉凪が頷く。
「何にしろ、実際に確かめてみないと分からないね」
泉凪はそう言って立ち止まり、顔を上げる。
泉凪たちの目の前には、山奥に似つかわしくない立派な御殿が建っており、そこが噂の叶いの館なのだとわかる。
「思ったより普通の御殿だね」
「外観はな」
「何かこう、禍々しい雰囲気を纏っているもんだと思っていたけど」
そう言う泉凪に苦笑する悠美。
「心の準備はいい?」
「もちろん」
悠美は御殿の戸を開け、中に入る。
御殿の中は至って普通な内装をしており、特に人の気配はない。
「今の所変わった様子はないが」
「中を見て回るか」
悠美は先を歩き、その後を泉凪が続く形で御殿内を見て回る。
だが、特に変わった様子はなく、音なども聞こえない。
(何も無さすぎるし、静かすぎるのが、かえって妙だな……)
泉凪がそう考えながら辺りを見渡していた時。
一つの、何故か妙に惹かれる部屋が目に止まった。
その瞬間、泉凪の頭の中に「お入りください」と言う声がし、泉凪はぼーっとした様子で、吸い込まれるようにその部屋に近づく。
「ダメだ。こっちは行き止まりだ……ってどこに行った?」
つい先程まで後ろにいた泉凪の姿が無く、悠美の顔は青ざめ、近くの部屋の戸を開ける。
だが、どこを探しても泉凪の姿はない。
「まずいな……」
悠美は一つ息を吐き、心を落ち着かせ、御殿内をもう一度探し回る。
◇
「やっちゃったな……」
泉凪はそう呟きながら、何もない、ただ薄暗い空間を見渡す。
頭の中に声が聞こえ、ぼーっとし、気がつくと何もない薄暗い空間に立っていた泉凪。
どうやってここに来たのか、何でここにいるのか、全く思い出せない様子。
「火翠の若君は無事かなぁ。まぁ、火翠の若君だし大丈夫か」
そんな事を呟きながら、出口はないかと何もない薄暗い空間を歩き始める。
だが、歩けど出口どころか何も無く、歩みを止める。
「どうしたものか。せめてここがどこなのか分かれば」
そう泉凪がため息混じりに呟いた時、何やら背後に気配を感じ「そこに居るのは誰かな?」と問いかける。
「これはこれは……」
そこには、長い髪の毛のせいで顔が全く見えない、一人の女性が立っていた。
そんな女性に泉凪は「貴女か? 永遠に結ばれると噂を流し、若い男女をこの御殿に誘い込んでいるのは」と問いかける。
だが、女性はその問いに答えず「……か……のは……」と呟く。
何を言っているのか聞こえず、泉凪は「すまない。もう一度言ってくれないか」と言おうとした時。
女性は唸り声を上げたかと思えば、突如、泉凪の元に飛んでき、叫ぶような声で言う。
「お前か!! 私の婚約者を奪ったのは!!」




