当主継承編 突然に
再び、月花邸へと向かうため、歩みを進める泉凪と悠美。
その途中で、それぞれの郷について話をしていた。
「火翠の郷では、火翠家の名前の由来の、赤く中で炎が燃える翡翠が沢山取れるんだよね?」
泉凪の言う通り、火翠の郷で取れる翡翠は、赤く中が燃えており、火翠の人間の神力に触れると更に激しく燃え、その力で周りにある火翠も燃え出し、あたり一面まるで赤い炎に囲まれたようになり、何とも幻想的な光景なんだとか。
泉凪の言葉に悠美は「月光花のように、火翠では沢山取れるぞ」と頷く。
「そうなんだ。ぜひ一度、見てみたいものだね」
「なら、今度火翠の郷に招待するよ。」
そう笑う悠美、泉凪も「それは楽しみだ」と笑う。
◇
「何だか穏やかな場所だな」
月花邸にやって来た泉凪たち。
庭が見える開けた部屋を見渡しながら、悠美はそう呟く。
「皇宮と違って、狭いところだけど」
悠美は火翠の人間だが、郷ではあまり過ごしたことはなく、ほとんどを皇宮で過ごしていた。
泉凪にそう言われ、悠美は「皇宮より落ち着くよ。穏やかな空気が流れて、とてもいい場所で育ったのだな」と優しく微笑む。
そんな悠美を、ハナは見つめたかと思えば視線を逸らす。
「何だか甘い香りがするな。もしかして、月光花の匂いか?」
悠美の言葉に、悠美の分のお茶を淹れている泉凪は「そうだよ」と手を止める。
「邸の庭に沢山咲いているからね。部屋の中まで香ってくるんだ。月光花の香りには、心を落ち着かせる作用があるから、月花の郷の人は皆、よく戸を開けっぱなしにしているんだよ」
「そうなのか」と頷く悠美。
ふと、近くの家の柱が目に止まり見てみると、そこには何やら文字が彫られていた。
「いずな、こと……」
彫られてある文字を読み上げる悠美。
そんな悠美の隣に並び、泉凪は「懐かしい〜」と目を細める。
「もしかして、幼い頃の身長か?」
「そうだよ。私も花都も幼い頃、身長があまり変わらなくて、よくどっちが高いか競っていたなぁ……」
「今は、花都の方が遥かに高いけど」と懐かしそうに話す泉凪。
そんな泉凪を見て、悠美は「いい思い出だな」と優しく微笑む。
その時、何やら庭が騒がしくなり「泉凪お姉ちゃん! 遊ぼー!」と子どもたちが縁側に集まって来た。
泉凪は「皆んな、久しぶりだね」と庭に降りる。
「皆んな、何して遊んでいたの?」
「んーとね、影踏み鬼してたの〜」
「影踏み鬼〜?」
そう楽しそうに子どもたちと話す泉凪を見て、悠美は「泉凪と話している時の郷の人たちは皆、楽しそうですね」とハナに言う。
ハナは「……泉凪の存在は希望ですから。郷のものにとっても、私にとっても」と返す。
そんなハナは何とも言えない、微笑んではいるが、どこか切なく見える表情をしており、悠美は言葉を詰まらす。
その時だった。
「泉凪ちゃん! お師匠さん! 大変だよ!!」
慌ただしく、どこか焦った様子の一人の女性が泉凪たちの元にやって来た。




