当主継承編 月光花
「泉凪」
子どもたちに連れられ、郷の入り口までやって来たハナ。
そこには、郷の人たちと楽しそうに談笑する泉凪の姿があった。
泉凪に気づくなり、ハナは泉凪の名を呼ぶ。
「あ、師匠。お久しぶりです」
ハナに気づいた泉凪は嬉しそうに笑みを浮かべ、ハナに挨拶する。
「帰ってくるのなら、前もって言ってくれれば盛大に出迎えると言うのに……どうしたんだ? 急に」
「視察先が彩の町になったので、顔を見せに来たんですよ」
泉凪の言葉に「視察……もうそんな時期か」と呟くハナ。
ふと、視線を外し「ところで、彼は?」と同じく、郷の人たちと楽しそうに談笑する悠美の方を見る。
「あぁ……今回、視察をともにする相手の火翠家の若君ですよ」
そう言う泉凪、ハナは「……火翠か」とまじまじと見つめる。
「どうしました? 師匠」
「いや……それより、その手に持つものはもしや?」
ハナはそう言い、泉凪が手に持つものに視線を向ける。
泉凪の手には先程、彩の町で買った彩の酒があり、泉凪は「あぁ……お察しの通り、師匠が大好きな彩の酒ですよ」と師匠に渡す。
ハナは「流石私の弟子だ。今すぐ国中に自慢して回りたいくらいの有能っぷりだな」と調子のいいことを言う。
「またそんな調子のいいことを……」
ハナは「早速飲もうじゃないか。泉凪も飲むだろう? そこの火翠の若様もいっぱいどうです?」と悠美に声をかけ、悠美は泉凪たちの元に寄ってくる。
「こちらの方は?」
「紹介するよ。私の師匠」
「この方が……」
悠美がそう言うと、ハナは「火翠の若様もお酒、お飲みになられますよね?」とお酒を進める。
「は、はぁ……」
「師匠、私たちは視察の途中です。それにまだ昼ですよ」
「そう堅いこと言うもんじゃないぞ、泉凪」
「火翠の若様、月花邸に招待しますよ。ついて来てください」と言いながら、悠美は歩き出す。
泉凪は「すまない、火翠の若様。師匠は少し人の話を聞かないところがある」と悠美に謝罪する。
「いや……私も月花の郷を見て回りたい。いいか?」
「若君が言うなら」
こうして、泉凪たちは郷を散策しながら、月花邸へと向かうこととなった。
◇
「本当に、月光花がたくさん咲いているのだな」
月花邸までの道の途中。
郷のあちらこちらに咲く、沢山の月光花を見てそう驚く悠美。
月光花は月花の郷にしか咲かないとされている花なため、珍しい月光花に悠美は興味津々な様子。
「実物は初めて見たが、本当に花弁が透けているのだな」
花の前にしゃがみ込み、花をまじまじと見つめる悠美。
その隣に泉凪もしゃがみ「この透けている状態は完全に咲いている状態じゃないんだよ」と言い、その後を悠美は続ける。
「確か月光花は名前の通り、月の光によって蕾の状態から花を咲かせ、花を咲かせた月光花の花弁は朝から昼間の間、透明になり、夜になり、月の光を浴びたら綺麗な薄紫色の花を咲かせるんだったな」
そう、すらすらと月光花について、話す悠美を見て泉凪は「随分、詳しいんだね」と驚く。
「昔、調べたことがあるんだ」
「へぇ……若君は花が好きなんだね」
泉凪は真っ直ぐ悠美のことを見つめそう聞く。
悠美は視線を外し「いや、まぁ、そうだな……」と曖昧な返事をする。
そんな悠美を不思議そうに泉凪は見つめる。




