当主継承編 どうしたものか
「おはよう、火翠の若君」
そう言いながら泉凪は。悠美の元に歩いて来る。
その後ろには、泉凪の見送りに来た花都の姿もある。
今回の視察は、従者たちは付いていけず、神力者達だけで行く事になっている。
泉凪達に気づいた悠美は「あぁ、おはよう」と笑みを浮かべる。
そんな後ろで心温は会釈をし、花都も会釈をする。
「他の神力者達はまだ来ていないみたいだね」
辺りを見渡しながらそう言う泉凪。
悠美は頷き「いつでも出発していいらしい」と答える。
「そう。なら、もう行く?」
「彩の町はかなり離れているからな。」
そう話す二人をじっと見つめる心温。
そんな心温に花都は「どうしました?」と不思議そうに尋ねる。
「……いえ。」
心温はそう言って、一週間前、悠美から聞いた話を思い出す。
『……本当に冷たくしているわけではないが、一つ、心当たりがある』
そうどこか言いにくそうに、視線を外しながら言う悠美。
そんな悠美に『心当たり?』と心温は聞き返す。
『……何をしていても、何処にいても月花の姫君の話し声が聞こえてくるし、姿が目に入って来るんだ』
『え……?』
『聞かない様に見ない様にしても、聞こえてくるし、目に入って来るんだ。』
『何故だと思う?』そう真剣な表情で、心温に尋ねる悠美。
話を聞いていた心温は『それって……』と口を開く。
『めちゃくちゃ耳と目よくないか?』
心温は鈍かった。
そんな心温の言葉に『めちゃくちゃ耳と目が良かったらそうなるのか?』と真剣に聞き返す。
『でも、月花の姫君だけだぞ。他の者にはそんな事はない』
『なら違うか……』
『それに……月花の姫君の前だけでは、何と言うか、上手く振る舞えないんだ。』
更に悠美が話を続けるのを、心温は黙って聞く。
『何故だか分からないが、どう話したら楽しんでもらえるかとか、こう言う振る舞いは嫌われてしまうのではとか、色々と余計なことばかり考えてしまって……』
そう言う悠美は、いつも他人に見せている完璧で、非の打ち所がない大人びた姿とは違い、年相応な青年の姿に思えた。
『それがかえって、冷たい態度を取っていた風に見えていたのかもしれない』と落ち込む悠美。
『悠美、それ……』
そこまで言い、心温は口をつぐむ。
ここまで聞き、心温はやっと気づいたのだ。
(今の話を聞くからに、悠美は月花様に対して、特別な感情を抱いている。だが、本人はそのことを自覚していないようだ。なら、俺の口から言うのは違うのでは……?)
まさか、そのような事で悩んでいるとは思わず、心温はどうしたものかと頭を悩ませる。
そんな心温に悠美は「どうした?」と心配そうに顔を覗く。
(まぁ……良かれ悪かれ、視察で月花様との関係が変わる様に思える。それまで野暮はよすか)
心温は、悠美自身で自分の気持ちに気づいてもらうため、何も言わないことを選んだ。
そして、視察へと向かう現在に戻る。




