第一章 風雲児ー2ー
「おい! 聞いたか? 遂に十六人目の神力を持った子が皇宮入りしたらしいぞ!」
とある飲屋街にあるとある酒場。
お酒を飲みすぎてなのか、はたまた興奮しすぎてなのか定かではない、耳先まで真っ赤になった男が鼻息を荒げながら隣で酒を飲む者に、たった今耳にした話をする。
「あぁ、知ってるさ。何せ前の皇宮入りから二年が経ってるからな。どこもかしこもその話題で持ちきりだ。と言うかお前、腕を折っているのにそんなに興奮すると危ないぞ」
至って冷静な返しに、興奮気味の男は面白くなさそうに「なんだよ、知ってたのかよ」と口を尖らせ「すでに折れてんだ。二度折れようが一緒さ」と折れた腕を横に振る。
かつて神から力を授かり、先祖代々、神守国の七つの土地を守ってきた七つの家は、仕来たり通り今回も続々と神からの贈り物、神力を持つ子どもが生まれていた。
毎回、神力を持つ子どもは十七名と決まっており、つい先日十六人目の神力を持つ子どもが皇宮入りしたと発表されたのだ。
皇宮のみならず、国民からしても一大事な事で、先日からあちらこちらでその話題で持ちきりになっていた。
「またしても地星家から出たらしいな」
「これで五人目だろ? 相変わらず神力を持って生まれる子どもの人数が多いな」
「ハッ! いくら多かろうと、皇帝を輩出できなきゃ意味ねぇだろ」
皆、本人が目の前にいないのをいいことに口々に物を言う。
大それた話題は、噂好きの人間からすればいい話のネタになる。
こうしてだんだんと、有る事無い事が広まっていくのが、世の習わしなのだ。
「今回は月花の郷が滅んじまったから神力を持つ子どもは少ねえって話だったけど、まさか十六人目までいくとわな」
「あぁ。俺も二年も空いたからてっきり二人は月花家の人間だと思ってたよ」
そう言っては「にしても月花の郷はいいところだったなぁ」と男らはしんみりし、酒を乱暴に流し込む。
その話が聞こえていたのか、男らの後ろに座る他の客が話に入ってくる。
「お客さん。月花の郷には行かれたことが?」
突如、話に入ってきた者に男らは酷く驚いた表情を浮かべる。
話に入ってきた者は、すげ笠を顔が隠れるように被り、表情は全く見えないが、その佇まいはとても品があり、只者ではないと言うことがわかる。
「こりゃ驚いた……随分と品がある兄ちゃんだな」
「月花の郷には昔に一度だけ行ったことがあるが……そう言う兄ちゃんはもしかして、月花の出身なのか?」
男の質問にすげ笠を被った若い男は「まぁ、出身と言われればそうかもしれない」と曖昧な返事をする。
「そうか、気の毒だったな。月花の郷はいいとこだったのによ。」
「あぁ、郷の風景は綺麗で飯はうまく、里の人間も皆穏やかで。何より当主様がとてもいい人だったからな。」
「それに今の皇帝陛下と同等の強さを持っておられたお方だった。当主様自身は皇帝にはなられなかったが、もし後継が生まれたら物凄い力を持って生まれていたんじゃないかと皆期待していたよ」
「まぁ、それも叶わない話になってしまったが」と寂しそうに呟く男。
その話を聞いていたすげ笠の若い男は、フッと笑みを浮かべ、そして、何やら意味ありげに「叶わない話か」と呟く。
「まだ一人残ってるじゃないか」
「気持ちはわかるが、月花の郷はもうねぇんだ。あと一人、神力を持つ子が現れたとしても、月花から出ることはねぇよ」
「そうだ。当主様含め、まだ子どもを授かりになられていなかったんだからな」
「夢見るのはわかるが」と更に酒を流し込む男たち。
そんな男たちに何故か自信満々な態度で「夢じゃないさ。そしてそれはもう直ぐ叶うのさ」と呟き、すげ笠から見える口元が悪戯に笑っていた。
「あぁ? 兄ちゃん、酒の飲み過ぎで頭おかしくなったか?」
「ほら、もう酒なんか飲まないで水でも飲め」
あまりに現実的ではない事を言うため、酒にだいぶ酔っているのかと、男たちは水を差し出すもすげ笠の男は「必要ない」とそれを断る。
すると、どこからか「師匠」と呼ぶ子どもの声がした。
「おっと、そろそろ時間だな。私はここで失礼させてもらう。短いが月花のことを聞けて良かった」
戯言を言ったと思えば唐突に立ち上がり、礼を言ってくるので男たちは狼狽え曖昧な返事を返す。
「そうそう。今日出会えたことに少しばかりの祝福を」
すげ笠の男はそう言って、店を後にする。
その後ろ姿を男たちは呆然と眺める。
「……変わった若者だったな」
「祝福をって……あれ? 折れてる腕痛くねぇ!!」
そう言って男は折れているはずの腕を、ぶんぶんと振り回す。
「そんなわけない」と連れの男は確かめてみるも、確かに折れている様子はなく唖然とする。
「すげー!! おい、今日は祝いだ! 飲み直すぞ!!」




