当主継承編 すれ違い
「にしても、いくら毒に耐性があるといえ、目隠しをした状態で弓引きをしていたとは」
「流石、月花様だな」と感心する心温。
そんな心温に悠美は「感心している場合か」とつっこむ。
「傷の広がり具合や症状からして、盛った毒の量は少量だったのだろう。その事から殺す気はなかったように思えるが、いくら少量と言え、下手をすれば命を落としてもおかしくは無い。毒に耐性があるとはいえ、後少しでも処置が遅れていれば、どうなっていたことか」
少し声を震わせながら、そう言い泉凪の頬に手を触れようとするも、それを止める悠美。
「殺す気はなかったと言うことは、動機は何だ?」
「弓引きの失敗、だろうな」
悠美の言葉を聞き、心温は目を見開き驚く。
「弓引きの失敗ってことは、月花様に個人的に恨みがある者か?」
「あぁ……。となると、神力者の中に犯人がいる可能性が高いな」
「それに、毒を刺したのは宮女らがお茶菓子を配膳していた時だろう」
心温は「配膳……? どうしてだ?」と聞き返す。
「犯人が神力者だとすれば、自身で手を汚す真似は絶対にしないだろうからな。金で雇ったか何だか知らないが、他人にやらせるだろう。お披露目会中は、神力者に近づくことは難しいが、配膳を行う時は別だ。宴会台は狭く、配膳に来た宮女の数も十は超えていた。一々、宮女の顔を覚えている者もいない」
「毒を刺すのにこれ以上ない機会だからな」
「それ以前ならば、もう少し早く症状が出ているはずだしな」と両腕を束帯の袖に入れ、そう説明する悠美。
悠美の説明を聞き「なるほど……」と心温は頷く。
「とにかく、皇宮内の宮女を全て集め、犯人を探し出さねば」
悠美がそう言ったのを遮るように「その必要はないよ」と言う声がする。
その声の主は泉凪のもので、痛むのか体をゆっくりと起こす。
そんな泉凪に悠美は「無理をするな」と言い、支える。
「その必要はないと言うのは?」
泉凪の言葉を疑問に思った心温は、泉凪にそう問いかける。
泉凪は「そのままの意味だよ」と返す。
「宮女を集めてまで犯人を探す必要はない」
泉凪の言葉に悠美と心温は驚き「探す必要はないって、何故だ? 毒を刺されているのだぞ?」と悠美は問いかける。
そんな悠美に続け、心温も「それに、月花様は神力者であられます。そんなお方に毒を刺しておいて、探さないなどあり得ません」と言う。
心温の言葉を聞き泉凪は「だからだよ」と返す。
悠美も心温も訳がわからないと言った表情を浮かべる。
「神力者に毒を刺すなど、一般のものが到底考えるものではない。それも、警備が厳しいお披露目会の最中にだ。恐らく他の神力者の仕業なのだろう。自分で手を汚さず、他人に任せるぐらいのものだ。仮に刺したものを見つけたとしても、指示したものはそんなことは言っていないとしらを切るだろう」
「そうなれば、罪を全て刺した者が被ることになる」
「それはあまり良くないからね」と笑う泉凪。
そんな泉凪に悠美は「何故刺したものを庇う? いくら雇われたといえ、刺したことは事実だろう? 罰を受けるのは当然のことだ」と言い返す。
だが、泉凪は真っ直ぐ悠美を見つめ言う。
「……確かに刺したことは事実だ。だが、どこの国で身分の低いものが身分の高いものに逆らえよう。」
その言葉を聞いた瞬間、悠美の中にあるとある記憶が一瞬蘇ってき、悠美は頭を抑える。
そんな中、泉凪は更に話を続ける。
「権力を振り翳され、手を汚してしまった者がいるとすれば、その者にできることはただ一つ、許すことだ」
そう言う泉凪に悠美は一瞬蘇って来た記憶を消すように頭を振り「刺した者が恨みを持っていたとしてもか? 神力者が犯人ではなく、ただ単に恨んでいたから刺したとしたら?」と問う。
その問いかけに泉凪はふっと、優しい笑みを浮かべ答える。
「それでも許すだけだ。私は生きているからね」
「それにこれは、他の宮女たちのためでもある。皇宮内の全ての宮女の中から探すとなると数日はかかるからね。その間、ずっと関係のない宮女まで疑われなきゃならない。そんな思いはさせたくないからね」
泉凪の言葉を聞き、悠美は「……下手をすれば死んでいたのかもしれないのだぞ」と呟く。
「生きているじゃないか」
「結果的にだ。後少しでも気づくのが遅ければ? 思ったより毒の量が多ければ? 毒の耐性がなければ? 私が……!」
〝私が毒に耐性がなく、処置ができなければ〟そう言おうとしたが、それを止め口をつぐみ、拳にギュッと力を入れる悠美。
「……不老半不死なだけで不死ではないんだ。無茶をして死んでしまったらどうする」
俯きながら、そう力なく言う悠美。
そんな悠美を見て、泉凪は「火翠の若君……?」と声をかける。
その時「泉凪!!」と言う声がし、入口の方を見てみると、心配そうな表情を浮かべた心大とその従者の千景がおり、心大は泉凪に駆け寄る。
「心大」
「大丈夫? 泉凪、心配したんだよ」
悠美は千景に姫君を頼むよう伝えてくれと言い、医務室から出て行く。




