当主継承編 違和感
「……そう言えば、宴が始まった直後から雷林の若君の姿が見えないけど、まさか来てないの?」
お披露目会も終盤に差し掛かった頃。
ふと気がついたことを千季は、左隣に座る文月に問いかける。
だが、返事が返ってこないので千季は「文月?」と名前を呼ぶ。
すると、文月はハッとした表情を浮かべ「すまない、もう一度言ってくれるかい?」と答える。
文月の顔は少し赤くなっているように見える。
もしやと思い千季は文月に「酔ってる?」と尋ねる。
「酔ってないよ」
「いや、酔ってるでしょ。そう言えば文月はまだ、十八になったばかりで最近飲めるようになったんだったね」
「生意気だから年下なのをすっかり忘れていたよ」と笑う千季。
そんな千季に「生意気は余計だよ」と口を尖らせる。
神守の国では十八で成人し、お酒を飲むことができる。
因みに唯一神力者の中で、十七歳の心大は飲むことができないため、お茶を飲んでいる。
「そんな事より、何かボクに聞きたかったんじゃないのかい?」
「あぁ、そうだった。雷林の若君の姿が見えないと思ってね。何か知ってる?」
文月は「あぁ……」と酔っているせいか、どこかぼーっとした様子。
「涼雅の従者が体調が悪いとか何かで、付き添ってるみたいだよ」
あっけらかんと言う文月に「え……?」と驚く千季。
自己中心的で自由奔放な涼雅。
そんな涼雅が体調が良くないと言う理由で、従者についてあげていることが、理解できない様子。
「あの雷林の若君が……? というか、そんな理由でお披露目会に出ないなんて事許されるの?」
「さぁ……? 涼雅は一度言ったら聞かないからね。下手したらお披露目会で暴れかねない。そうなるくらいなら、少しだけでも顔を見せて後は帰ってもらう方がいいでしょ」
「それは、そうだけど」とにわかに信じられない様子の千季。
その時、お披露目会最後の方に食べられるお茶菓子を配膳するため、宮女たちが宴会台にやって来る。
そんな宮女たちをふと見た千季は、何か違和感を感じる。
(あのような宮女いたか……?)
そう千季がじっと見つめる先には、何処にでもいるような宮女がおり、泉凪らの方の配膳を行なっている。
そんな宮女を何故か千季は気にする。
どこか様子がおかしいことに気づいた心大が「千季さん、どうかしましたか?」と尋ねる。
「……いや、何でもないよ」
そう曖昧に返事をする千季。
そんな千季を心大は不思議そうに見つめる。
「月花様。こちらお茶菓子でございます」
お茶菓子を配膳に来た宮女に、泉凪は「あぁ、ありがとう」と返す。
泉凪や他の神力者に配膳を終えた宮女たちは、去っていく。
その時、泉凪の右腕に誰かがぶつかった。
だが、皆、何事もなかったかのように、歩いて行っており、誰がぶつかったかはわからない。
泉凪は、狭いしな。と考えるだけで、特に気にはしていない様子。
それから、配られた茶菓子を食べ、もう少しで弓引きの時間になる、そう言った時だった。
(右腕が、痛いな。)
何やら右腕に違和感と痛みを覚えた。
先程ぶつかったのが右腕だったことから、その時によるものかと考えるも、それにしては鋭く鈍い痛みのように思える。
すぐに治るだろうと、待ってはみるも治まるどころか、痛みは先ほどより増している感覚があり、心なしか熱を帯びているようだ。
少し冷や汗もかいて来ている気がする。
「……どうした?」
突如、そのような声がした。
その声の主は悠美で、様子がおかしいことに気づいたのか、眉を顰めている。
「どこか具合でも悪いのか?」
「いや……少し、弓を引くことに緊張しているだけだよ」
泉凪は咄嗟にそう嘘をつく。
泉凪はどうしても弓引きをしたかったからだ。
弓引きには優秀な神力者が選ばれる。
今はそこまで目立ってはないが、幼い頃は女の神力者だからと言って色々と心無いことを言われてきた。
だから、今回弓引きに選ばれ、無事弓引きを成功させることで少しでも、心無いことを言って来たものたちを見返してやりたい。
それに、弓引きに選ばれたと聞き、心の底から喜んでくれたハナや郷の皆んなの期待に応えたい。
そんな思いたちが泉凪にはあった。
なので、右腕を痛めたと言う理由だけで、弓引きを辞退するわけにはいかない。
それに、宮女が神力者に怪我をさせたと知れば、宮中の宮女が集められ尋問が行われるだろう。
そうなることは避けたい。
泉凪は「気を使わせてしまって申し訳ない」と気丈に振る舞う。
そんな泉凪を見て悠美は「……ならいいが」とそれ以上は、何も聞いてこなかった。




