当主継承編 お披露目
「やぁ、火翠の若君」
翌日の座学を終えた後、大神官に言われた通り、弓引きに選ばれた者たちは弓道場へと集まっていた。
先に弓道場にいた悠美を見つけ、泉凪は悠美に話しかける。
そんな泉凪の方を見、悠美も「あぁ、月花の姫君か」と笑みを浮かべる。
その笑みはどこか胡散臭く見え(この前の件で少し仲良くなれたと思ったが、気のせいだったか)と思う。
「まだ大神官は来ていないんだね。」
「あぁ、少し遅れるらしい」
泉凪は「そう」と返事をし、とある方に視線をやると「ところで……」と呟く。
「彼は何をやっているの?」
その瞬間、カーンッと言う弓が的に当たる音が弓道場に響き渡る。
泉凪の言葉に悠美も泉凪の視線の先の方を振り返り「あぁ」と返事をする。
「弓を引いている」
「いや、それは見たらわかるけど、何で今?」
「待っている間、時間が勿体無いとか何かで私が来た時にはもう引いていたよ」
悠美の話を聞きちらりと、雪乃が弓を引く先の的を見る。
的には十射以上の矢が刺さっており、座学が終わってから、数分の間に引く量じゃないと苦笑する。
その時、弓道場の戸が開き「おや」と声がする。
「私が最後でしたか」
「あぁ、地星家の」
泉凪は弓道場に入って来た彼に声をかける。
心大より少し暗めの灰茶色の長い髪ををした、どこか知性を感じられる彼は、同じく弓引きに選ばれた地星家の分家出身の若菜。
心大とは従兄弟の関係にあたる。
「少し遅くなってしまいましたか」
「いや、私も今来たところだよ。それに、大神官はまだ来ていないよ」
「そうでしたか。」
そう上品に笑う若菜を見て泉凪は、どこか心大に似ているなと心大の顔を思い出しクスッと笑う。
それから大神官はやってき、お披露目での弓引きの説明を行う。
「皆様には当日、一人五射弓を引いていただきます。」
「その時に、皆様にはこの布を目に巻いていただきます」
そう言って大神官は、着物の袖から一枚の細くて長い黒い布を取り出す。
布を巻いて弓を引くのが、お披露目の伝統。
ただでさえ、目隠しをせずとも五射皆中するのは難しいことだが、目隠しをしながら弓を引くとなると至難の業になってくる。
そのため、選ばれるのは座学で弓の腕が高かったものが選ばれるのだが、毎回、外すものが出る。
「何故、目隠し?」
「慣わしだそうだ」
「へぇ……変わってるね」
「全くだ」
泉凪と雪乃の会話を隣で聞いていた若菜はクスクスと笑う。
「それでは皆様。当日はよろしくお願い致します
◇
「くそっ……! 腹の立つ。何故、月花の姫君なんかが弓引きに」
地星の宮の晃の部屋。
机の上に置いてある書類を怒りに任せ、ばら撒く晃。
余程、泉凪が弓引きに選ばれたのが腹が立つのか、鼻息荒くそう言う。
「今に見とけよ月花よ。必ず当日、大恥かかせてやる……!!」
そう一人で大声をあげ笑う晃。
あまりの情緒の安定のなさに、従者は怯えた表情を浮かべている。
こうして不穏な空気の中、泉凪たちはお披露目会当日の日を迎えた。




