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皇宮の花嵐  作者: 透明
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皇位継承編 元気だよ

 


 鈴と初めて会った日から、数週間経ったある日の事。


 その日も、泉凪は鈴に会いに行っており、他愛もない会話をしていた。



 そんな時、ふと鈴は『あのね……』と言うと、どこか嬉しそうに泉凪に言う。




 『実は、松野まつの様の邸宅で、働かせていただける事になったの!』




 鈴の言葉を聞いた泉凪は『ほんと?』と、嬉しそうに言う。



 松野とは、各当主らを除けば、一、二を競うくらいの神守の国で財をなしている家。


 そこで前から鈴は、働きたいと思っていたのだ。




 鈴の父は早くで他界し、鈴の母も病気を患っており、鈴が家族を支えるために、仕事を掛け持ちしている状態。


 だが、それでもかなりきついらしく、鈴はずっと他の仕事を探していたのだ。




 中々、女性で稼げる仕事はなく、どうしたものかと思っていた時、松野の邸宅で、お手伝いを募集していると聞き、鈴は志願していたのだ。


 その事を泉凪にも話していた鈴。



 つい先日、見事に松野の邸宅で働ける事になり、鈴は泉凪に報告できる事を楽しみにしていたのだ。




 『住み込みで働くんだよね? いつからなの?』


 『来週の頭からなの』




 そう言う鈴に、泉凪は『もうすぐだね。おめでとう』と鈴を祝う。


 だが、鈴は少し曖昧な返事をする。



 そんな鈴に泉凪は『不安?』と問いかけると、鈴は首を横に振る。




 『働く事に不安はないの。掛け持ちして働くより、邸宅で働く方が稼げるし。けど、家に帰れるのは二週間に一度程度だから、家族に会えなくなるのが寂しくて』  


 『それに、せっかく泉凪ちゃんと仲良くなれて、こうして週に一回は会えるのに、それも無くなるかと思うと……』




 そう言って寂しそうにする鈴。


 そんな鈴に、泉凪は言う。




 『寂しがらないで。会える日を知らせてくれたら、必ず会いにくるから』




 そう言う泉凪に、鈴は『本当……? 約束だよ?』と言うと、泉凪は『あぁ、約束』と小指を出す。


 すると、鈴は嬉しそうに小指を出し、約束を交わす。




 『私、泉凪ちゃんの事すっごく好き! 友達になれて嬉しいよ!』




 そう言う鈴に、泉凪は『急だね』と言うも、嬉しそうに眉を八の字にし笑い『私も。鈴の事大好きだし、友達になれて嬉しいよ』と言う。



 そして二人は笑い合う。



 そんな二人を少し離れたところで、警護をしながら見守っている花都は、微笑ましそうに見つめる。




 それから二ヶ月が経った。


 鈴は邸宅で働き出し、泉凪は当主の仕事が忙しく、中々、会うことができずにいたが、その日は久しぶりに二人の休暇が重なり、会う約束をしていた。



 いつも二人が会う、鈴の家から近くの小川が流れている場所で、鈴を待つ泉凪。


 初めて会った日は花々が綺麗に咲き、暖かい空気が流れていたが、今は夏に近づき、辺りは新緑に包まれ、少し蒸し暑さを感じる。



 そんな空気を肌で感じ、鈴と出会い随分経つのだと感慨深くなる。




 そんな事を考えながら、ぼんやりと、流れる川を見つめていると『泉凪ちゃん』と聞きなれた声で、泉凪のことを呼ぶ声が聞こえてくる。



 振り返ると、そこには鈴がおり、泉凪は嬉しそうに『鈴!』と彼女の名前を呼ぶ。




 『久しぶりだね。元気にしていた?』




 泉凪は鈴の元へ行くと、しばらく会っていなかった鈴の体調を気にかける。


 すると、泉凪は鈴がどこか元気がない様子に気づき『どうしたの? 鈴。元気がないようだけど、何かあった?』と心配そうに問いかける。



 そんな泉凪に鈴は『……そうかなぁ? 私はいつものように元気だよ!』と笑みを浮かべる。


 一瞬だが、何かを言いかけたようにも見えたが、鈴の『久しぶりに会えたら一緒に行きたいところがあったの! 行こう!』と言う言葉に遮られ、泉凪は聞き返す機会を逃してしまう。







 『今日はありがとう! 久しぶりに泉凪ちゃんに会えて、凄く楽しかった! けど、私が行きたい場所ばかりに付き合わせちゃってごめんね』




 別れの時間になり、申し訳なさそうにそう言う鈴に、泉凪は『鈴と一緒に鈴が行きたい場所に行けて、私も楽しかったよ』と返す。


 そんな泉凪の言葉を聞いて、嬉しそうに笑う鈴。




 『それじゃあ、またね!』




 そう言って、邸宅へと帰って行く鈴の後ろ姿を眺め、泉凪は少し安堵する。



 今朝会った時、何処か元気がないように思えたが、一緒に過ごす鈴はいつも元気で、明るい鈴だったので、思い過ごしだったのかと思う。




 その日からしばらく、また二人は忙しい日々を過ごし、次に会うのは三ヶ月後だった。

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