皇位継承編 教えて
翌日の午前九時ごろ。
泉凪たちは、少年たちが住む地下の部屋の近くにある、誰も寄り付かず、使われていない部屋へとやってきていた。
泉凪は、壁にもたれかかり、腕を組みながら「来てくれるかな」と言う。
昨日、泉凪は彩に、少年たちをまとめる役だと言う、遥と言う少年に、話があるから泉凪たちが今いる場所へと来てほしいと、伝えてと頼んだのだ。
旅館を取り締まるのに、少年たちの協力があれば、より、早く取り締まることができると考えたからだ。
「来なかったら来なかったで、私たちだけで頃合いを見て取り締まれば良いさ」
そう言う悠美に、泉凪は「そうだね」と頷く。
その時だった。
扉の近くでガサッという音が、聞こえてきた。
心温は「見てきます」と言うと、扉に近づき確認する。
すると「来てくれたのか」と言う声がしたかと思えば、一人の少年が、どこか警戒しながら部屋に入ってくる。
その少年は、先ほど泉凪たちが話をしていた遥と言う少年だ。
そんな彼に、泉凪は「遥くん、だよね? 急に呼び出してしまって申し訳ない。けど、来てくれて嬉しいよ」と優しく声をかける。
だが遥は、まだ警戒しているのか軽く頷くだけで、何も言わない。
そんな遥に、泉凪は「私と彼は、君に会ったことがあるんだけど、分かるかな?」と悠美に視線やりながら言うと、遥はゆっくりと頷く。
「よかった」
そう笑う泉凪に、遥は「そ、それで話って何だよ……」と言うと、泉凪は「実は、彩ちゃんから君が少年たちを纏める役割をしているって聞いてね。そんな君に頼みたい事があって、今回来てもらったんだ」と言う。
そんな泉凪に遥は「頼みたい事?」と怪訝そうな表情を浮かべる。
「うん。もう直ぐ、この旅館は取り締まられるんだ。だから、ここで働く大人たちや客たちは皆んな、皇宮へと連れて行かれる。そうなった時に、女の子たちや君たちが危ない目に遭わないように、皆んなを非難させて欲しいんだ」
泉凪の話を聞いた遥は「取り締まられる……?」と、訳がわからないと言った表情を浮かべる。
だが、泉凪は話を続ける。
「女の子たちや、君たちを傷つけたくないし、誰一人と残さず絶対に皆んな助けたい。そうするためには、君たちの協力が必要なんだ」
そう言う泉凪の言葉を聞き、遥は「待って」と言うと、困惑したように言う。
「もう直ぐ取り締まられるって? あんたらも客だろ? 何でそんなこと知ってんの? ていうか、何でそんなことあんたらが俺に頼むの?」
そう尋ねてくる遥に、泉凪は言う。
「ごめんね、名乗り遅れてしまったね。私たちは皇宮から、この旅館に潜入捜査に来ている、月花家当主の月花泉凪って言うんだ」
そう言う泉凪に続け、悠美も「同じく、火翠家当主の火翠悠美だ。それから、彼らは私と泉凪の従者だ」と紹介する。
泉凪と悠美の言葉に、遥は「当主って……神力者ってこと……? それに、皇宮からって……本当に?」と疑っているよう。
それも無理ない。
泉凪たちは今、身分を隠すため、仮面をつけ外見を変えているから、信じられないのも当然だ。
泉凪は「あぁ、これが邪魔だね」と言うと、つけている仮面を少し外し、顔をのぞかせる。
すると、黒色の髪は綺麗な桔梗色になり、美しく整った顔が見える。
同じく悠美も、仮面を取ると、綺麗な蘇芳色の髪になり、これまた恐ろしく整った顔が見える。
生で見た事がない遥でも、その特徴のある髪色と、美しい見た目で彼女らが神力者である事がわかる。
泉凪は「これで信じてもらえたかな?」と言うと、遥は俯く。
そんな遥に、泉凪は「遥くん?」と尋ねると、遥は言う。
「何で今になってくんだよ!!」
そう声を荒げる遥の表情は、怒りや悲しみが混じっている。
そんな遥に驚きながらも、泉凪たちは遥の話に耳を傾ける。
「俺たちはずっと、皇宮の人間が助けに来るのを待ってた!! けど、待っても待っても来なくて、姉ちゃんは……!!」
そこまで言うと、遥はむせたのか咳き込む。
そんな遥に、泉凪は「……ごめん、遅くなってしまって。私たちが来るのが遅かったせいで、君たちがたくさん傷ついてきた事はわかっている。だけど、遅くなってしまったけど、それでも私たちは遥くんや皆んなの事を助けたい。だから、遥くん君のことを教えて。ここに来るまでのこと、そしてここに来てからのこと」と言う。
その表情や声は真っ直ぐでとても真剣で。
だが、暖かく。
思わず、自身の事を話してしまいたくなるような、そんな思いが出てきた。
そして遥は、ゆっくりと今まであった事を思い返すように、話し始める。