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皇宮の花嵐  作者: 透明
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皇位継承編 三回目の視察

 


 何処かの森の中。


 そこには、三人のまだ年端もいかないような少年と、一人の天狗の面を着けた者がおり、何やら話をしていた。




 「……本当に、言われた通りやれば、俺たちは自由になるんだよな?」




 そう目の前に立つ天狗の面の者を睨みつけながら、天狗の面の者に問いかける、少し伸びた髪を後ろで結び、体のあちらこちらにあざがある少年。



 その少年だけではなく、他の二人の少年の体にも、あちらこちらにあざがあり、三人とも着ている着物もボロボロで泥汚れが目立つ。




 そんな少年に、天狗の面の者は「えぇ、もちろん。代償は伴いますが、必ず自由になりますよ」と穏やかな口調で言う。




 「ただ、チャンスは一度だけです。必ず失敗しないように。途中で一人でも降りれば、成功しませんのでお忘れ無く」




 天狗の面の者の言葉を聞き、一つ結びをしている少年はゴクッと息を呑むと、ゆっくりと頷く。







 「──最後に、神守町に視察に行っていただく方は、火翠様、月花様の両名です」




 三回目の視察の日になり、再び門の前に集められていた神力者たち。


 神力者たちは、空澄から視察先を聞き終え、それぞれ牛車の準備が終わるまで待っている。




 「良かったな、悠美! 月花様と一緒の視察先だぞ!」




 そう嬉しそうに、隣に立つ悠美に耳打ちをする心温。


 そんな心温に、悠美は「あぁ、そうだな」とそっけなく返し、心温は「そうだなって……」と戸惑う。



 勿論、悠美も泉凪と視察先が一緒になって、喜ぶと思っていた心温。


 だが、喜ぶどころか、何処かそっけない態度に「やっぱり、五回目の試験の時、月花様と何かあったのか?」と尋ねる。




 第五試験が終わり、宮に戻ってからため息ばかりついていた悠美。


 そんな悠美に、元気付けようと心温が泉凪の話を振ると、いつもなら嬉しそうに泉凪の話をする悠美が『……今は泉凪の話はやめてくれ』と話を途中で遮ったのだ。



 泉凪の話をするななどと、今まで言ったことがない悠美。


 その時、試験の時に何かあったのかと心温は思い、尋ねるも何もないの一点張りで、詳しい事は聞けていない状態。




 心温の言葉に、悠美は「何もないって……」と返した時「悠美」と、悠美の事を呼ぶ声がする。


 その瞬間、悠美の瞳は揺らぎ、ゆっくりと声のした方を見る。



 そこには、泉と凪を引き連れた泉凪がおり、悠美の元へと歩いてくる。


 そんな泉凪を少し驚いた表情を浮かべ見つめる悠美。




 「……久しぶりに一緒の視察だね。よろしくね」




 そう言って笑みを浮かべる泉凪。


 だが、何処か気を使っているのが悠美には分かった。




 そんな泉凪を見て、悠美は手に力を入れる。




 (……泉凪に気を使わせてしまっている。何をしているんだ、本当に)




 悠美も、笑みを浮かべると「あぁ、よろしく」と返す。


 やはり、何処か二人の間に気まずさのような、いつもと違った空気が流れ、泉は隣にいる凪に「なんか空気悪くね?」と耳打ちをする。



 そして、泉凪と悠美を見た心温は、心配そうな表情を浮かべると(どうしたものか……)とため息をつく。



 その時「月花様、火翠様」と呼びながら、空澄が二人の元へとやって来た。




 「どうしたの? 空澄」




 泉凪がそう尋ねると、空澄は「陛下から、お二人に伝言を預かっているので、お伝えさせていただきます」と言うと、陛下からの伝言を二人に伝える。




 「今回、月花様、火翠様には神守町にある、とある旅館へと潜入し、旅館を調べて頂きたいとのことです」




 空澄の言葉を聞き、泉凪と悠美は「旅館?」と声を揃え、空澄は頷く。




 「その旅館は、最近出来たそうですが、どなたでも泊まることも、食事を頂くこともでき、評判も良く、すぐに町一番の旅館へとなったそうですが……その裏で、とある噂が流れていまして」


 「噂?」


 「はい。その旅館には、どなたでも利用ができる建物とは別に、大金を払うと利用できる建物があるとかで、そこの建物では、最上級のおもてなしがされるらしく、上流国民の方たちがこぞって利用されているらしいのですが」




 空澄はそこまで言うと、顔を曇らせ、少し言葉を詰まらせながら言う。




 「どうやら、そこで働かされているのは、十歳から十九までの若い男女らしく、貧しい子達を唆して連れてきては、ただ働き同然に働かせ、暴力も振るわれているそうです」




 空澄の言葉に、顔を顰める泉凪たち。


 悠美は空澄に「その件を、陛下は調べて来てほしいと?」と尋ねると、空澄は頷き「それからもう一つ。調べて頂きたいことがあります」と言うと、顔を顰める。




 「その旅館にやってきた客に、接客を任されていた何人もの若い女性たちが、次々と行方をくらませているそうです」


 


 空澄の言葉に悠美たちは、何かを察したのか顔を背けると、悠美は「……わかった、もういい」と言い、泉凪の方をチラリと見る。



 すると、泉凪は酷く顔を曇らせていた。


 そんな泉凪に悠美は「……泉凪、大丈夫か」と声をかける。




 「……大丈夫だよ。その二件を調べればいいんだね。私と悠美で調べてくるよ」




 泉凪はそう言って、気丈に振る舞っているものの、何処か体調が悪そうだ。


 そんな泉凪を見て、泉と凪は顔を見合わせ、何かを伝え合うように軽く頷く。




 「……それでは、よろしくお願いいたします」




 泉凪たちの牛舎の用意ができ、空澄に見送られながら、泉凪と悠美は牛舎に乗ると、空澄から聞いた話を確かめるため、神守の町にある旅館へと牛舎は向かう。



 こうして、三回目の視察は始まった。


 それが泉凪にとって良くも悪くも、深く記憶に残る視察になる事は、まだこの時は知る由もなかった。

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