皇位継承編 神々
文は『泉凪へ』と言う文字から始まり、当主や力が強いものだけが、使う事ができると言う力について書かれていた。
『当主や力の強いものが使える力、それはたった一度だけ、心の底から愛している相手が、目を覚まさなくなってしまった時、口付けをすれば、月光花の力で助ける事ができると言うものだ』
美しい字で綴られる文字を読む泉凪。
『心の底から愛している……』と呟くと、文の続きを読む。
『絶対に心の底から愛している相手でないと、その力は作用しない』
『父は母を助ける時、その力を使う事が出来た。父にとって母は、心の底から愛している相手だったんだ』
そう書かれた、父と母の話を見、泉凪は思う。
心の底から愛している相手にだけ、使う事ができると言う力。
父は母にその力を使ったと書かれてあった。
それはとても素敵な事だ。
けれど、自分がもし心の底から愛していると思う人物が現れ、その人物が死の間際に立たされた時、その力を使おうとして使えなかったら?
そうなった時、きっと酷く傷つくし、相手のことを酷く傷つけるだろう。
ただでさえ、人を好きと言う気持ちが分からないのに、そんな力を私に使うことはできないだろう。
泉凪はそんな事を考えながら、再び文に目を通す。
『それから、薬も飲み続ければ毒となるように、月光花の力も毒となる陰の力がある。それは、幻覚、呪いと言う力だ』
『発動条件は色々とあるが、その力の持ち主が酷く恨みを持った時や、酷く怒りを覚えた時に、その力は発動する。それはごく稀だが、そうなった時は』
「毒を飲め、か」
泉凪はそう呟くと、窓の外を眺める。
そんな泉凪の頭の中には、とある女性が満面の笑みを浮かべ『泉凪ちゃん!』と名前を呼んでいる。
その瞬間泉凪は、どこか悲しそうな表情を浮かべ「鈴……」と呟く。
◇
辺り一面煌びやかで、窓から差し込む光が、部屋の中を明るく照らし、何とも神々しく見える場所。
そこには、狐の面を着けた六人の髪の長い者たちが、机を囲むように座り、食事をとっていた。
「いよいよ、試験も終わりを迎えるそうだな」
一人の、青朽葉色の髪をした者がそう言うと、隣に座る藍白色の髪をした者は「もうそんな時期か。時が経つのは早いな」と頷く。
「我々が力を授け、何千年と経つが、年々強い子たちが生まれておる。今回の皇帝もどの力を持つ者がなるか楽しみだ」
「あぁ。いい加減、火翠にも飽きたからな」
そう言う紺青色の髪の者と、灰茶色の髪の者。
そんな二人に対し、白銀色の髪の者は「どうせまた、火翠がズルをするのであろう。面白くない」と言うと、「どうにかならんもんなのか」呟く。
その言葉に、紺青色の髪の者は「こればかりはな。我々は、下のことに口を出せぬことになっておるしな」と言う。
「火翠に力を授けたのはお前だろう。どうにかしろ」
白銀色の髪の者は、蘇芳色の髪の者に言うと、蘇芳色の髪の者は「人同士のいざこざは知らぬ」と言う。
その言葉を聞き、白銀色の髪の者は深くため息を吐くと、辺りを見渡す。
そして「そう言えば、花神はまだ戻らぬのか」と言う。
「下の世界でやることがあるとか言って、ずっと戻って来ていないな、彼奴は」
「やる事って……数百年もの間一体何をしているのやら」
「我々からすれば、数百年だとそんな大した年数ではないからな。」
藍白色の髪の者の言葉に、皆は頷くとそれぞれ食事を続ける。
◇
第五試験が終わってから、二日の休暇を挟み、試験が始まってから三度目となる視察を行われようと、再び、視察先を発表するべく、神力者たちは門の前へと集められていた。