当主継承編 距離
「もういいでしょ、地星の一の若君。私の事を悪く言うのは勝手にやっててくれていい。ただ、これ以上他の人を巻きこむ気なら今ここに大神官をお呼びし、陛下に来てもらうようするけど? そうなったら、地星の一の若君の立場がなくなるのはわかっているでしょう?」
泉凪の言葉を聞き、流石にそれはまずいと判断したのか、晃を取り巻く者たちが「ち、地星の若君、今日はこの辺でよしましょう」と晃を説得する。
だが、晃は中々言う事を聞かない。
そんな晃にさらに追い打ちをかけるよう、泉凪は言う。
「先日の件があったと言うのに、まだそんな強情を張る気か? 地星の一の若君。二度目も許すほど陛下はお優しくないぞ」
泉凪の言葉を聞いた他の神力者や宮女が「二度目……?」「先日の件とは一体?」と騒つく。
その言葉が効いたのか、晃は一気に血の気が引き「い、行くぞ!」とそそくさとその場から離れる。
その様子を見た泉凪は一つため息をつき、悠美と文月の方を振り返る。
「火翠の若様に文月、世話かけたね。ありがとう」
そう礼を言う泉凪を見て悠美は「……聞いていたのか?」と尋ねる。
「ん? あぁ、火翠の若様が仰った事?」
「そうじゃない。晃の言っていた事を聞いていたのか?」
「まぁ……水園の若君と歩いていたら聞こえて来たからね。初めから聞いていたよ」
そうさらっと言う泉凪。
そんな泉凪に文月は「水園の若君って、千季のことかい?」と尋ねる。
「そうだよ。今、神官たちを呼びに行ってくれてるけどね」
その言葉を聞き、文月は「……そう」と何処か曖昧な返事をする。
泉凪が「二人の時間を取らせてしまって申し訳ない。また今度、改めて何か礼を」と言いかけた時「……すまなかった」と言う悠美の声に遮られた。
あまりの小ささに、一瞬、気のせいかと思うほど。
だが、確かに悠美はそう言ったのだ。
突如、悠美が謝罪をするため泉凪は困惑し「どう、して火翠の若様が謝るの?」と尋ねる。
悠美は申し訳なさそうな表情を浮かべ言う。
「もう少し早く地星の若君の事を止められていたら、聞きたくない事を聞かずに済んだだろ」
悠美の言葉を聞き泉凪は驚くも、すぐに吹き出すように笑う。
そんな泉凪を驚きながら見つめる悠美。
「まさか、火翠の若様にその様な理由で謝罪されるとは……文月もそうだけど、庇ってくれただけでも嬉しいよ。ありがとう」
そう言って笑みを向ける泉凪、悠美は目を見開く。
そんな泉凪に文月は「そう何度も礼はいらないよ」と言う。
「相変わらず、文月は潔いな」
そう泉凪と文月が話す隣で、悠美は自身の赤く熱った顔を隠す様に俯いていた。
◇
「……やぁ、千季。」
皇宮にある弓道場。
その中には弓を引く千季がおり、たった今、道場の中に入って来た文月はそんな千季に声をかける。
弓に集中していた千季は、突然声をかけられたことにより、驚き弓を引くもその矢は的を外した。
「文月か。弓を引いている相手に突然話しかけるのは良くないよ。外してしまったじゃないか」
眉を八の字にし、笑う千季。
そんな千季に文月は「それは申し訳ない。けど、ボクが話しかけなくとも的に矢が当たっていなかった様だけど?」と言う。
文月の言うとおり、的には一射も当たっていない。
「随分と調子が悪いみたいだね」
「まぁね、こんな時もあるさ。それよりよく僕がここにいるってわかったね」
「君の従者に聞いたからね」
「そう。それで、僕の従者に居場所を聞いてまで僕を探していた理由は?」
そう言いながら、千季は弓を構える。
文月は少し黙り低く、どこか冷たさを感じる声で「どうして泉凪を庇わなかったんだい?」と問いかける。
その瞬間、弓から矢が放たれる。
だが、矢は的に当たることはなかった。
千季は弓を下ろし、静かに文月の方を振り返る。
そんな千季に文月はさらに問いかける。
「あの時、君も泉凪と一緒にいたそうじゃないか。何故、止めなかったんだい?」
千季はただ、黙ったまま文月のことを見つめる。
「君が他人に対して距離を取りたがることは知っている。そんな君が珍しく自身から友になろうと歩み寄った相手だ。そんな相手すら見放すとは……少し君のことを見損なったよ。」
文月のそう言われた千季は、先程、晃たちが泉凪の事を悪く言っていた時のことを思い出す。




