皇位継承編 躊躇
競技場へと、神力者たちが集まる前のこと。
『泉凪』
皇宮の中庭にて、やって来た泉凪にそう声をかける千季。
千季に泉凪は『おはよう、突然呼び出してごめんね』と言う。
そんな泉凪は何処かぎこちなく、千季は眉を八の字にし『……この前の返事、だよね?』と尋ねると、泉凪は頷く。
◇
「ついこの間、試験が始まったところだと思っていたのに、もう途中の順位が発表されるとは、時が流れるのは早いね」
競技場へと集まっていた文月は、何処か感慨深そうに言う。
そんな文月に、隣に立つ心大は「ですね。皇位継承までは何百年と長かったのに」と頷く。
「何もう終わった感を出しているんだ。後試験は、最終試験も合わせたら、三つも残っているんだぞ」
文月と心大の話を聞き、そう冷静に言う雪乃。
そんな雪乃に涼雅は「後三つもあんのかー」と嫌そうな表情を浮かべる。
「その間に、視察などもあるから、そう考えたらまだ先だな」
悠美がそう言った時、心大は辺りをキョロキョロと見渡すと「そう言えば、泉凪と千季さんはまだ来ていないんですね」と言う。
心大の言う通り、泉凪と千季だけがまだ来ておらず、二人の従者は競技場へとやって来ている。
そんな心大の言葉に、文月は「本当だね。何かあったのかな?」と呟いた時「おはよう、皆んな」と言う声が聞こえてくる。
そちらを見てみると、泉凪と千季がおり、心大たちの元へとやって来る。
そんな二人を見て、心大は「丁度、二人の話をしていたんですよ!」と言い、文月は「二人で一緒に来たところを見ると、何かあったのかい?」と尋ねる。
文月の問いに、千季は「まぁ、ちょっとね」と濁すと、泉凪も千季を見て頷く。
そんな二人を見た文月たちは、不思議そうな表情を浮かべる中、悠美だけは、何処か複雑そうな表情を浮かべていた。
その時、競技場内に、神官の空澄がやってき、いよいよ現在の神守石の獲得数と、順位が発表される時間となる。
「それでは、七位の方から発表させて頂きたいと思います。皇位継承権第七位、雷林涼雅様」
名前を呼ばれた涼雅は「俺七位か〜」とさほど悔しそうな様子はなく言う。
そんな涼雅の隣で、心大は(涼雅さんが七位? てっきり僕だとばかり……)と思う。
そして、次々に皇位継承権の順位は発表されて行く。
「第六位、氷乃雪乃様、第五位四位は同数獲得されている、風音文月様、地星心大様の両名」
「第三位、月花泉凪様、そして第二位、第一位は同数点獲得されている、火翠悠美様、水園千季様の両名です」
皇位継承権の順位が発表されると、今度は神守石の獲得数が発表される。
涼雅は九つ、雪乃は十個、文月と心大は十一個で、泉凪は十二個、そして悠美と千季は最多の十四個だ。
「これにて、現時点での順位と獲得数の発表を終わります」
空澄がそう言って戻って行くと、文月は「まぁ。大体の予想はついていたから、驚きはないね」と言うと、雪乃は頷く。
そんな文月たちの隣で、涼雅は「それより、飯食いに行こ! 今日は試験も視察もないんだしさ!」と、全く順位を気にしていない様子。
その近くにいた悠美は、泉凪に声をかけようとするも、それを止める。
何故なら、千季と楽しそうに話をしていたからだ。
以前の悠美なら、構わず話しかけに行くが、この間の千季が言っていた言葉が頭をよぎり、躊躇してしまう。
そんな悠美に、悠美の元にやってきた心温は「悠美? 月花様に声をかけないのか? 久しぶりに会うんだろ?」と言うも、悠美は「いや、いい。帰るぞ」と言い、さっさと歩いて行ってしまう。
悠美の心の中は今、複雑な思いで溢れかえっているのだ。
そんな悠美を「悠美!?」と追う心温。
その声が聞こえた泉凪は、ふと悠美の後ろ姿を見ては、何か言いたそうに見つめる。
そして、現時点の皇位継承順位が発表されてから二日後、五回目の試験が行われる。