皇位継承編 久しぶりの皇宮
「うんめぇ〜!!」
皇宮へと帰る前に、泉が最後に夕月の羊羹を食べ、買って帰りたいと駄々をこねたため、泉凪たちは夕月へと羊羹を食べに来ていた。
泉は羊羹を口に入れると、今にも頬が溶ろけてしまいそうな表情を浮かべる。
「まるで、初めて食べたかの様な反応だな」
国重邸に居ている間、何度か夕月の羊羹は食べているはずなのだが、初めて食べたかのような反応を見せる泉を見て、涼雅はそう可笑しそうに言う。
「でも、泉さんの気持ち分かります。何度食べても美味しいですよね!」
そう言って美味しそうに、羊羹を口にする白夜に、涼雅は「そんなに気に入ったなら、おまえも買って帰れば」と言う。
そんな涼雅の言葉に白夜は「いいんですか……?」と聞き返す。
「泉凪も今、外で土産用の菓子見てるから、見てこいよ」
涼雅の言葉に、白夜は「はい……!」と嬉しそうに返事をすると、白夜は外に土産用の菓子を見に行く。
「月花様!」
菓子を見ている泉凪に、そう声をかける白夜。
「お土産は決まりましたか?」
白夜の問いに、泉凪は「とりあえず、羊羹は決まったかな。泉が気に入ったみたいだし」と言う。
そんな泉凪の言葉に、白夜は「沢山種類があって悩みますね」と言うと、泉凪は頷く。
あれが美味しそう、これはどうかなと楽しそうに、土産用の菓子を選ぶ泉凪と白夜。
そんな泉凪たちに、一人の男性が近づく。
そして「おーいたいた」と泉凪に向かって突如、声をかけたのだ。
「え?」
白夜はそう言って声をかけて来た者を見ると、泉凪もその者のことを見る。
泉凪は、声をかけて来た者の手元を見る。
(天狗の面……?)
声をかけて来た者は、天狗の面を持っており、泉凪は怪訝に思う。
そんな泉凪に、天狗の面を持った者は「本当に月花の娘は生きてんじゃん!」と、何故だが嬉しそうに言う。
白夜は「だ、誰だか知りませんが、失礼ですよ!!」と注意する。
そんな白夜を見て、天狗の面を持つ者は「おー怖。何とも頼もしい従者だこと」と言うと「そんな殺気立たなくても確認しに来ただけだから」と言い、泉凪の肩に手を置く。
そして「またな」と言うと、歩いて行くので、白夜は「お、追います!」と後を追おうとするも、泉凪に「追わなくていいよ」止められる。
「ですが……」
「私は大丈夫だから」
泉凪はそう言うと「さっ。早くお土産用の菓子を決めちゃおう」と言うと、白夜の体を菓子の方へと向かせる。
◇
「泉凪様! こっちの水やりは終わりましたよ!」
視察から皇宮へと戻って来た泉凪たち。
その翌日、視察も試験もない泉凪は、月花宮に咲く、月光花に水をやっていた。
視察から帰って直ぐに、幽霊騒動の件を皇帝に報告した泉凪たち。
その件に、皇宮の人間が関わっていると言うことを伝えると、皇帝は顔を曇らせると「ご苦労だったな。調べておく」と言う。
幽霊騒動の件は、皇帝に伝えた泉凪だが、天狗の面を持った事は、泉凪は皇帝には伝えたが、話した内容は報告はしなかった。
何か思うところが、泉凪にはある様だ。
「泉様! そんな乱暴に水をかけては、お花が悲しみますよ!」
泉凪は、ぼーっと天狗の面を持った者に言われたことを思い出していると、突如、侍女である千代の声が耳に入ってくる。
見てみると、泉が花の水のやり方について、千代に怒られており、そんな二人のそばで凪が呆れた表情を浮かべていた。
千代と泉と凪は、千代の方がお姉さんだが、年齢が近く気が合うのか、よく、気さくに話をしている。
そんな三人を見た泉凪は、微笑ましそうに笑み浮かべると「皆んな、お茶にしようか」と声をかける。
その言葉に、泉は待ってましたと言わんばかりに、嬉しそうに頷く。
「わっ! この羊羹、とっても美味しいですね!」
お茶のお供に出したのは、夕月で買った羊羹で、驚いた様にそう言う千代に、泉は何故だが得意げに「でしょ〜?」と言う。
そんな泉を見て、凪は「なんでお前が得意げなんだ」とつっこむ。
泉凪は、一口お茶を飲むと「三人のおかげで、早く水やりが終わったよ。ありがとう」と礼を言うと、三人は嬉しそうに笑う。
久しぶりに、皇宮でゆったりとしながら過ごしていると、窓の外から鳥の鳴き声が聞こえてき、窓を開けると綺麗な白色の鳥が、一通の文を加え飛んでいたのだ。
そんな鳥を見た泉凪は「伝書鳥だ」と言うと、文を受け取る。
そして、文を開けると、書かれた内容を読む。
そこには『明日、午前九時頃、各当主様の現時点の神守石の獲得数と、順位を発表いたしますので、競技場へお越しください』とだけ書かれてあった。
「獲得数と順位発表……! 緊張しますね……!」
泉の言葉に泉凪は頷くと「早いな。ついこの間、第一試験を行ったと思ったのに」と言う。
そして翌日になり、当主らは、自身の神守石の獲得数と順位を確認するため、競技場へと集まっていた。