皇位継承編 第四試験終了
迷路の中で待つ千季は、地図を広げ、自身の現在地と他の者たちの現在地を確認する。
(恐らく、悠美は一番遠く離れた涼雅の元に行くだろう。文月は、近くの心大の元へと行きそうだけど、文月は刀の腕に自信があるから、雪乃の元に行きそうだな)
(そして、冷静な泉凪はそれらを全て読み、一番近くの心大の元へと行きそうだな)
「と言うことは、僕の元には誰も迎えはこなさそうだ」
千季は、現在地を見ただけで、泉凪たちの行動を読み取ったのだ。
そして、自身の元には迎えが来ないであろう事を悟った。
それからしばらくし、千季の地図には他の者たちが、会場へと戻った事が表示され、千季は「やっぱりね」と呟くと、会場へと戻るため、足を進める。
その道中には、多くの魔物が潜んでおり、千季は刀を振るう。
だが、何故か刀を握る手には力が入らず、何処か体が重い。
(どうしたんだろう……何だか体が重いな)
いつもなら、この程度の事はどうって事がないのに、すぐに息が切れる。
だが、魔物を倒さなければ、会場へと戻れないため、ひたすら刀を振るう。
「しまった……!」
その時、衝撃で刀が飛ばされてしまう。
急いで刀を拾おうとするも、魔物が千季の前を塞ぐ。
神力で対抗しようとするも、力が入らない。
ダメだと思った時だった。
突如、千季の目の前にいる魔物は、奇声をあげその場に倒れ込む。
突然のことに、千季は驚いていると「千季、大丈夫?」と言う声が聞こえてくる。
その声を聞き、更に驚く千季は、声のした方を見る。
そして、力無く「泉、凪……?」と呟いた。
目の前には、会場へと戻ったはずの泉凪がおり、千季に「遅くなってしまってごめんね」と言う。
そんな泉凪に千季は「どうして、ここに?」と問いかける。
「どうしてって、千季を迎えに来たんだよ」
そう笑う泉凪に、千季は「迎えに来た……?」と呟く。
「迎えに来たって、まさか、僕を迎えにくるために、もう一度迷路の中へと入ったのかい?」
千季の言葉に、泉凪は「まぁね」と言うと、千季は「どうして……時間内に会場へと戻れなければ、たとえ一回会場へと戻っていようが、泉凪まで失格になるんだよ?」と言う。
だが泉凪は「わかってる」と言うと、柔らかく笑みを浮かべる。
「ただ、千季が一人で会場へと戻って来ると思ったら迎えに行かなきゃと思ったんだ。千季は隠しているけど寂しがりやだから。だって私たち友達でしょ?」
泉凪はそう言うと「まぁ、ただの勝手な私の考えだけどね」と呟く。
そして千季に「迷惑だったらごめんね。」と眉を八の字にし言う。
そんな泉凪を見た千季は「どうして……」と力無く呟く。
(どうして泉凪はいつも、僕が隠している事を読み取り、その時僕が欲しい言葉をくれるのだろう)
(きっと周りをよく見ている泉凪だから、そこに特別な意味がないのはわかっている。僕以外の者が、一人だったとしても、泉凪はきっと迎えに来る)
(分かっている。分かっているけれど、いつも冷静な泉凪が、無茶をして自分の事を迎えに来てくれたのが、たまらなく嬉しくて愛おしくて)
「本当、好きだな……」
千季はハッとした表情を浮かべる。
何故なら、思わず自分の口から〝好きだ〟と言う言葉が溢れてしまったからだ。
そして、真っ直ぐ自身を見て放たれたその言葉に、泉凪も驚いた表情を浮かべている。
「えっと……何か好きなものでもあった?」
戸惑いながらも、千季にそう尋ねる泉凪。
そんな泉凪を、千季は真っ直ぐ見つめ「泉凪が好きだ」と告げる。
思わぬ形で、泉凪に自身の想いを伝えてしまうことになった千季。
ただ、ここで伝えてしまわなければ、自身の中で溢れた泉凪が好きと言う気持ちが、溢れてしまいそうだったから。
突然、千季に好きだと言われ、驚いた表情を浮かべる泉凪。
そんな泉凪に千季は「突然ごめん。泉凪を困らす気もないし、返事が欲しいわけでもない。ただ、想いが溢れすぎちゃって」と眉を八の字にし笑う。
泉凪は「いや……」と言うも、どこか戸惑っている様子。
そんな泉凪に千季は「とりあえず、時間がないから会場へと戻ろうか」と言い、二人は会場へと向かう。
◇
「あ、見てください! 泉凪と千季さんが帰って来られましたよ!」
会場内にて、会場へと戻って来た泉凪と千季を見て、嬉しそうにそう言う心大。
無事に、泉凪と千季は時間内に会場へと戻って来る事ができたのだ。
「お帰りなさい! 泉凪、千季さん!」
「時間内に戻って来るなんてすごいじゃないか」
心大たちは、そう言って泉凪たちの元へ行くと、泉凪は「なんとか間に合って良かったよ」と言う。
そして、心大たちと話をする泉凪と千季。
その様子を見た悠美は、どこか違和感を覚える。
無事に、全員時間内に戻って来れ、それぞれ神守石が贈呈される。
こうして、四回目の試験は終わり、神力者たちはしばしの休息期間を迎えるのだった。