皇位継承編 迎えに
涼雅の元へと向かっている最中の悠美。
だが、その道中には多くの魔物が潜んでおり、そのどれもがかなりの強さを持ち、悠美の倍の体長を持っていた。
そのため、悠美は中々涼雅の元へと向かう事が出来ないでいたのだ。
「はぁ……分かってはいたが、倒しても倒してもキリがないな」
悠美は乱れた息を整えると、刀についた魔物の血を払う。
そして、地図を確認すると、悠美の現在地は涼雅の近くを示していた。
「ここをもう少し行けば、涼雅が待つ場所に着くな」
悠美は刀に力を入れ直すと、涼雅が待つ場所へと急いで向かう。
◇
「涼雅」
何とか、涼雅が待つ場所へと辿り着いた悠美は、退屈そうにその場に座り込む涼雅の名前を呼ぶ。
そんな悠美に気づいた涼雅は「え!? 悠美!?」と驚いた表情を浮かべると「何でここにいんの!?」と言う。
「何でここにいんのって、お前を迎えにきたに決まっているだろう」
何を言っているんだとでも言いたげな表情を浮かべ、涼雅にそう言う悠美。
悠美の言葉を聞き、涼雅は「迎えにきた? 悠美が俺を??」とあり得ないとでも言った表情を浮かべる。
あまりの驚きぶりに、悠美は「そんなに驚く事か」と眉を顰めると「私の場所から一番、涼雅が遠かったからな。遠い場所にいる者を迎えに行けばより多く、神守石を貰えるだろ」と言う。
そんな悠美の言葉に、涼雅は「なーんだ。俺を迎えにきたのは、神守石のためなのかよ〜」と口を尖らせる。
「当たり前だろ。それ以外に理由があるか?」
「大親友の俺のためを思って迎えにきたとかさ〜あるじゃん?」
そう悠美の肩に腕を回す涼雅。
そんな涼雅に悠美は「くっつくな」と腕をどけ「それに、お前と大親友になった覚えはないぞ」とあしらう。
「ほら、さっさと会場へと戻るぞ」
「へいへい」
涼雅は頭の後ろに手を回し、先に歩く悠美の後をついて行く。
すると、悠美は足を止め「言い忘れていたが……」と言い、涼雅の方を振り返る。
「ここまでの道中、かなりの魔物が潜んでいた。帰りもかなり潜んでいると思うから、任せたぞ、涼雅」
「は? そんなの聞いてねぇし! てか、二人で倒せば良くね?」
帰りの魔物退治を、涼雅に全振りする悠美に、涼雅はそう言うと、悠美は「失格になるかもしれない中、お前を迎えにきてやったんだ。楽して帰すわけないだろ」と真顔で言う。
そんな悠美に涼雅は「頼んでねぇし!!」と怒るも、悠美は「なら、置いて行くまでだな」とふっと笑い足を進める。
涼雅は「あ、待てよ!! わかった、俺が魔物を倒すよ!! 倒せば良いんだろ!!」と慌てて叫びながら、先を行く悠美の後を続く。
◇
「……かなりの量に、かなりの強さの魔物ばかりだったけれど、大したことはなかったね」
目の前でくたばっている魔物を見て、鞘を刀にしまいながらそう呟く文月。
文月の方にも、かなりの魔物が姿を現していたが、文月は順調に倒していき、雪乃が待つ場所へと近づいていた。
かなりの量、それもかなりの強さの魔物を相手にしていたはずだが、全く疲れている様子はなく、初めと動きが変わらない。
流石は、剣が得意なだけある。
文月は、現在地を地図で確認すると、雪乃が待つ場所までは目と鼻の先だった。
「意外と簡単に辿り着けたね」
文月はそう呟くと、すぐ近くで待つ雪乃の元へと足を進める。
「………何をしているんだい? 君は」
文月は無事に雪乃の元へと辿り着いたが、雪乃を見るなり、眉を顰めながら雪乃にそう問いかける。
雪乃は「見て分からぬか。刀の鍛錬だ」と刀で素振りをしながら答える。
文月が雪乃の元へと着くなり、雪乃はその場で刀の素振りをしており、驚きを通り越して引いている文月。
元々、変わってはいたが、まさか迷路の中で待っている最中に、素振りをしているとは思わなかったのだ。
「何故、素振りを?」
「待っている間何もする事がなくてな。ただ時間を潰すのは勿体無いし、それなら素振りをしていようと思ったまでだ」
文月がやって来たのに、一向に素振りを止めようとはしない雪乃を見て、文月は「……そう」と苦笑いを浮かべる。
「まさか、文月が迎えに来てくれるとはな」
素振りを終え、文月の話を聞く雪乃は、自身のことを迎えに来た文月に驚いている様子。
そんな雪乃に文月は「まぁ、ボクがいた場所から雪乃が一番遠かったからね」と言う。
「意外だな。お前なら、危険を冒さずに近くにいる者の元へと向かいそうだが」
雪乃にそう言われ、文月は「まぁ、ね……」と呟き、腰に差してある刀に手を触れる。
「まぁ、いい。迎えに来てくれ感謝する」
そう礼を言う雪乃に、文月は「お礼を言うのはここから出てからだよ。会場までの道に魔物がうじゃうじゃいるからね」と言う。
そんな文月に「何を言っている。俺と文月の二人で倒せばすぐにここから出れられる」と言う雪乃。
雪乃の言葉を聞いた文月は「まぁね」と眉を八の字にし笑うと、二人は会場へと戻るため、足を進めるのだった。