皇位継承編 信じる
巻きつけられた蔦を外した妖は、再度、泉凪たちに攻撃をしてくる。
それを避け、ひとまず木の影に隠れる。
「妖の力自体は、俺たち三人で力を合わせれば余裕で祓えるような強さだが、あの毒が厄介だな」
雪乃の言葉に千季は頷くと「毒さえなければ、簡単なのにね」と言う。
「まぁ、三人でやればなんとかなるでしょ」
千季はそう言うと、少し懐かしそうに笑みを浮かべ「何だかこんな状況前にもあったな」と呟く。
千季の言葉を聞いた泉凪は頷くと「もう、自分だけ残るって言うのは無しだからね」と笑う。
そんな泉凪に千季はハハッと笑みを浮かべると「あの時、泉凪たちに助けてもらった命だ。もう言わないよ」と言う。
「それは良かった」
そう話す二人を見つめる雪乃は、千季を見て(千季もああ言う風に笑うのだな)と珍しいものを見たと驚く。
「……妖の毒のことだけど」
どう、妖を祓うかと話をしていた泉凪たち。
突如、そう言う泉凪に千季と雪乃は視線を向ける。
「私が先陣を切るから、二人がその後に続く感じで行くって言うのはどうかな?」
泉凪の言葉を聞き、千季は「それは……!」と焦った表情を浮かべるも、泉凪は「大丈夫。身を投げる真似はしないよ」と言う。
そんな泉凪に雪乃は「何か、策があるのか?」と静かに、冷静に尋ねる。
「策って言う策があるわけでは無いけど、私は毒に耐性があるから。先陣を切るにはいいかなと。ちゃんと自分の限界は把握しているし、無茶な真似はしないよ」
そう言う泉凪の意見を尊重したいが、いくら毒に耐性があるからと言い、毒に突っ込んでいく様な真似はさせたく無い千季は「でも……」と躊躇っている様子。
その隣で雪乃は泉凪に「信じるぞ」と言うと泉凪は少し驚き、だが、嬉しそうに頷く。
そんな泉凪を見た千季は(躊躇っている場合ではないか……今は泉凪を……)と考えると、真っ直ぐ泉凪を見「信じるよ」と言う。
千季にも信じると言われた泉凪は、嬉しそうに頷く。
◇
「……それじゃあ、合図をしたらお願いね」
泉凪の言葉に、千季と雪乃は頷くと、泉凪は一人、妖の前に姿を現す。
泉凪に気づいた妖は、泉凪に向かって毒を吐く。
だが、泉凪は臆するどころか、その毒に突っ込んでいく様に、妖に向かって走る。
再び、妖の体を蔦が巻き付くも、一瞬でちぎられてしまう。
「少し弱かったかな」
泉凪はそう呟き「これはどうかな」と言うと、妖の体に何処からともなく降って来た花弁が纏わりつくと、妖の身動きが取れなくなる。
その瞬間、泉凪は「今だ!!」と叫ぶと、そばで待機していた千季と雪乃が姿を現す。
そして、三人は妖に向かい光の玉の様なものを発する。
それは自身の神力を込めたもので、それを喰らい、光に包まれ、妖は唸り声を上げながら消えて行く。
その時、妖が消えたため、妖の中に溜まっていた毒が辺りに放たれ、泉凪たちは腕で口元を覆うも、毒を吸い込んでしまい、千季と雪乃はその場に倒れ込んでしまう。
◇
「泉凪様たち大丈夫かな」
泉凪たちに、村人たちの事を守っているよう言われた泉たち従者と空澄。
未だ、戻ってくる様子のない泉凪の安否を心配する泉は、先程から落ち着かない様子。
そんな泉に光陽は「泉、落ち着けって。自分の主人を信じろよな! ちゃんと帰ってくるって!」と声をかける。
(泉だけじゃなく、凪も時も不安そうだな。これだから、新人の従者は……)
光陽は心の中でそう呟くと「先輩の俺がしっかりしなきゃな」と言うと、泉凪たちが入って行った山を見つめ「だから早く帰って来てくださいね。雪乃様」と誰にも気づかれないくらいの小さな声で呟く。
その時だった。
「おい!! あれ……香月たちじゃないか!?」
一人の男性が、山の方を指差しそう声を上げたのだ。
光陽は「え……」と呟くと指差す方に視線を向ける。
そこには、こちらへと走ってくる香月と深雪の姿があった。
香月と深雪の名前を呼ぶ村人たち。
そのことに気づいた二人は、安堵した表情を浮かべると、走る足を早める。
「香月たちよく戻って来たな!!」
「無事で良かった……!!」
そう言って、香月と深雪の父親はそれぞれ、戻って来た自分の息子を抱きしめる。
「泉凪姉ちゃんたちが助けに来てくれたんだ!!」
そう嬉しそうに言う香月に続け、深雪も「その雪だるまがここまで連れて来てくれたんだよ!」と言う。
その言葉に光陽は(雪乃様が作られた雪だるま……!!)と雪だるまに目を向ける。
「それで、泉凪様たちは?」
戻って来た香月と深雪にそう問いかける泉。
そんな泉に香月は、自分たちが戻って来た経緯を話す。
「つまり、千季様たちは今も妖と対峙していると言うことか……!?」
時の言葉に、村人たちは「それってまずいんじゃ……?」とざわめき出し、香月と深雪は心配そうな表情を浮かべる。
「泉、凪、時」
そんな中、光陽は他の三人の従者の名前を呼ぶと、四人は顔を見合わせ頷き、山へと向かおうとする。
その時だった。
「待つんだ、お前たち」
突如、聞き馴染みのある声がしたかと思えば、そこには予想もしない人物がおり、光陽はその人物を見て驚いた表情を浮かべ言う。
「こ、皇帝陛下……!?」