皇位継承編 天狗の面
泉凪たちは、犯人を探すために両村に、ことの詳細を聞く。
「初めに発見したのは、恐らく子どもたちです。子どもたちに呼ばれ、見に行くと銅像は割れていました。その後すぐに、村長の家へと向かい銅像が壊れていることを話しました」
そう白雪村の一人の男性は、説明すると深雪の父である村長が「彼の言う通り、彼が私のことを呼びに来、銅像の前へとやって来ました。そしてその時、畑が荒らされていると言う事も聞いたんです」と続けて言う。
「我々も同じように、子どもたちから話を聞き、銅像へと駆けつけると、既に白雪の者たちがいました。その前に畑が荒らされていると言うことを聞き、畑の方も見に行っていましたから、来るのが少し遅くなってしまいましたが」
香月の父である雪原村の村長も泉凪たちに、ここにやって来た経緯を説明する。
両村の話を聞いた光陽が「お互いに、子どもたちが知らせに来たのか」と顎に手をやり呟くと、香月の父が「雪原と白雪の子どもたちは一緒に遊んでいたようです。あれほど一緒に遊んではいけないと言い聞かせていたのに」とため息混じりに呟く。
その言葉を聞いた子どもたちは、顔を俯かせる。
「その件は今はいいでしょう。それに、子どもたちが一緒に遊んでいて、銅像が壊れている事に気づいたから、両村同時に知らせることができたんでしょう」
泉凪の言葉に、香月の父は口をつぐむ。
「いつ頃まで銅像が壊れていなかったか、分かる方はおられますか?」
空澄の問いかけに、白雪の者の一人が「俺が最後かは知らねぇが、昨夜の二十時頃は、まだ銅像も畑も綺麗なままだったよ」と言う。
その者の言葉を聞き「二十時以降に、銅像や畑を見た人は?」と千季は再度問う。
だが、誰もおらず「まぁ、流石に夜こんな所まで出歩かないか」と呟く。
銅像が立っている場所は、丁度、雪原と白雪の間に立っており、人気も少なく、夜は暗く視界が悪くなるため、あまり通る者はいないのだ。
皆がそう話をしていた時、一人の雪原村の者が、隣に立つ同じく雪原村の二十代前半くらいの女性に「大丈夫か? 顔色が悪いようだが、体調が良くないのか?」と小声で声をかける。
確かにその女性の顔色は悪く、心なしか体も震えているようだ。
その女性は「だ、大丈夫」と言うと「少し、休んでくるね」と止める声も聞かず、その場を離れる。
「一応、両村、そして外部の者の仕業も考えて、調べましょう」
空澄の言葉に、村人たちは「外部って、滅多にこの地に他所の人間は寄りつかねぇよ」「大体、ただでさえ分かりにくい場所にあんのに、他所の人間が暗い中来れるわけねぇだろ」と口々に言う。
「やっぱり、内部の奴がやったとしか思えねぇ」
「どうせ、雪原の奴らがやったんだろ? 昨日も、うちのチビを投げ飛ばしたらしいしな。どうせ、畑が荒らされてるって言うのも、嘘なんだろ?」
白雪の者の言葉に、雪原の人たちは「それを言うなら、そっちだって畑が荒らされているとか嘘なんじゃねぇのか?」と言い出し、再び衝突し合う。
「空澄が余計なこと言うから」
千季にそう言われ、空澄は「よ、余計なことでしたか?」と焦ったように言う。
再び衝突し合う両村を見て、ため息をつく雪乃。
「言い争っている暇があるのなら、犯人を探したほうが早いと思うが」
雪乃の言葉に、村人たちは「わかっていますが……」と言い合いを止める。
そんな村人たちに、千季は「一旦、皆それぞれ自分の村に戻って下さい。我々で手がかりを探しますので」と言うと、香月の父は「神力者様方にお任せするわけには……!」と言う。
だが千季は「言いましたよね? 一旦、それぞれの村へ戻って下さいと。冷静ではない状態で犯人探しをしてもまた、揉め出すだけですから」と笑みを浮かべているも、目が笑っていない。
村人たちは「わ、わかりました」とそれぞれの村に戻ろうとする。
「あれ……? 深雪は?」
ふと、深雪の姿が見えない事に気づいた香月は、そう言って辺りを見渡す。
すると近くにいた少女が「あ、深雪ならあそこにいるよ」と深雪らしい後ろ姿を指さすも、後から来た人で隠れてしまう。
「どこ?」
「隠れちゃった」
香月は(村に戻ろうとしてるならいいけど)と、父に呼ばれ父の元へと駆け寄る。
何処かの小屋の中。
そこには、天狗の面を被った二人の者がおり、一人の窓枠に腰をかける者が「ガキが一人、例の場所に入って行ったぞ」と言うと「みたいですね」ともう一人の者は返す。
「村の連中も、銅像や畑が荒らされて、混乱してるみてぇだし、当分、ガキがいねぇことは気づかねぇだろ」
「にしても、両村の平和の証でもある銅像を壊して、争いを起こそうとするとは……お前たちみたいな奴が考える事じゃねぇだろ」
その言葉を聞き、もう一人の者は「せっかくの、貴方のようなお方に力を貸して頂けるかもしれないと言う機会、逃すわけにはいきませんからね。このくらいの事はしませんとお気に召して頂けませんから」と言う。
すると、窓枠に腰をかける天狗の面を被った者は「ハッ!!」と笑ったかと思えば「もう十分気に入ってるよ。お前が俺の元に来た時からな!」と言う。