皇位継承編 重大な事だぞ
皇帝の執務室。
そこでは、執務椅子に座る皇帝と向き合うように、大神官・藍良が立っており、何やら皇帝と話をしていた。
「最近、神獣らの姿を全く見ず、その代わり妖らの姿を頻繁に見るようになりました。そして、妖らは何やら騒ついているようです」
藍良の話に皇帝は「それは私も気になっていた」と頷く。
「妖たちが頻繁に姿を現し騒いでいるから、神獣たちが怖がり姿を現さないのだろうが……妖達が気になるな」
皇帝は顎に手を当てそう呟く。
はるか昔、妖術師を封印してからは、妖が目立って何かをする事は酷かった時代に比べれば減り、妖が関わる大きな事件も少なくなっていた。
数百年前、数百年振りに大妖が現れ、泉凪、悠美、千季の三名が鍾乳洞内で退治して以降、妖によっての大きな事件は滅多に起きなくなっていたのだが、ここ最近、再び妖が人を襲ったり、民家を荒らしたりと言うことが増えて来たのだ。
「妖が騒がしい時は、大概何かが起きる。例の妖術師を封じている所は問題ないのか?」
「はい。何か問題が起これば、神守石は赤色に光りますが、青色に光ったままですので問題はないかと」
「後で確かめに行きますが」と言う藍良に、皇帝も「私も行くよ」と返す。
「陛下が来てくださるのはありがたいですが、業務がまだ残っているのでは?」
「そんな物、帰って来てからやればいい」
そう言う皇帝を見て、藍良は(大丈夫でしょうか……)と、皇帝の後ろに立つ仁柊に視線を向ける。
案の定、仁柊は頭を抱えていたが、何も言わないところを見るともう、諦めているようだ。
◇
「泉凪、おはよう」
三日間の休日が終わり、当主とその従者らは正門の前へと集まっており、たった今、正門の前へとやって来た悠美は、泉凪を見つけるなり真っ先に声をかける。
そんな悠美に気づいた泉凪は「あぁ、悠美。おはよう」と返す。
(一見、悠美も月花様もいつも通りに見えるが……本当にあの日、何もなかったのか?)
二人楽しそうに話す泉凪と悠美を見て、そう考える心温。
昨日、泉凪と中庭で話をしてから、明らかに悠美の機嫌は良くなっていたのだが、何も話して来ないし、心温から「月花様と何かあったのか?」と聞くも悠美は「別に何も」と答えるだけで、詳しい事は結局話してもらえなかった。
(いつもの悠美なら、自慢するように月花様との事を話すのに、本当に何もなかったのか?)
そう眉を顰め、いつもと変わらずに談笑する二人をじっと見つめる。
するとその時、風が吹き後ろの髪は高い位置で一つに纏めてあったから、乱れる事はなかったが、泉凪の前髪が少し乱れてしまった。
「ん……!?」
心温は二人を見て驚く。
何故なら、悠美が乱れた泉凪の前髪を整え、かと思えば「今日の髪型、よく似合っている」と愛おしそうに微笑み言ったからだ。
(何だか距離が近くなったような……と言うより、悠美の月花様への距離の詰め方が変わっている)
(前までは、月花様に触れることも躊躇っていたのに……!)
(でもまぁ、月花様の方はいつもと変わらないな)と思いながら泉凪を見る心温。
だが、心温は「ん……?」と違和感を覚える。
(いつもと変わらない、よな……? いや、少し照れてる?)
いつも、悠美にどんなに甘い言葉を言われても、顔色は変わる事はなく、平然としていた泉凪。
だが、本当にわずかだが何処か照れているような表情を浮かべているように心温は思えたのだ。
(どんなに悠美が甘い言葉を囁こうが、甘い笑みを向けようが、全く動じなかったあの月花様が照れている、だと……!?)
(これは、とても重大な事だぞ!! 良かったな……悠美!!)
そう一人騒がしく表情を変える心温を見た泉凪は「悠美の所の心温、何だか騒がしいようだけど、大丈夫?」と心配そうに言う泉凪。
そんな泉凪に悠美は呆れた表情を浮かべ、心温を見ながら「すまない。あれが通常運転なんだ」と言う。
「いや、見ていて楽しいよ」
「そうか」
心温は自身に視線が向けられている事に気づかず、心温はニコニコと嬉しそうに笑っている。
その時、空澄と百合がやって来、当主達に「おはようございます、皆様、集まっていただきありがとうございます」と言う。
「今日は、当主の皆様に視察へと向かって頂きたく、集まって頂きました。この視察は試験ではありませんが、行い次第では神守石を贈呈致しますので皆様のご活躍、期待しております」
空澄の言う通り、これから当主らは数日かけて指定された場所へと視察へと向かう事になっており、その視察先を告げるため、正門前へと集められたのだ。
この視察でも、良い行いや問題を解決すると神守石を贈呈される事になっており、重要な視察となっている。
「それでは視察先と、一緒に行っていただく方を発表したいと思います」
空澄の言葉に当主らは皆耳を傾ける。