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皇宮の花嵐  作者: 透明
12/201

当主継承編 皇帝陛下

 泉凪たちが、拝謁室へとついたのと同時に、神官たちが出てきその中の他のものと違う、真っ白な装飾を見に纏った丸い眼鏡の神官が「皇帝陛下の御成り」と声を上げる。



 その声と同時に、悠美よりも深く濃く、紫に近い蘇芳色をした綺麗な長髪の男性が、玉座へと歩いてくる。



 神力を持つものたちが集まるこの中で、最も強いのだと分かる雰囲気を見に纏い、髪色と同じ蘇芳色の混じった華やかな着物から彼が皇帝陛下なのだと一目で分かる。



 そんな皇帝のすぐ側には、従者であろう黒髪の男性が支えている。




 「久しいな、神に選ばれし子たちよ。」




 そう微笑む様は美しく絵になり、そして自然と背筋が正しくなる。


 そんな皇帝を見て、側に支える黒髪の彼はゴホンッと一つ咳払いをする。




 「……陛下。陛下の横にある玉座は腰をかけるものです、もたれかかるものではありません。早急に腰をお掛けください」




 黒髪彼の言うとおり、何故か皇帝は玉座に腰をかけず、もたれかかっているのだ。




 「そうしたいのは山々だが、玉座に座ると目眩、動悸、息切れが起きてしまうのだ。」


 「何をおっしゃいますか。昨日も玉座に座られ、大臣らの話に耳を傾けていたではありませんか」


 「立て続けに座れば起きるのだ。玉座に座ったまま亡くなる皇帝の姿を仁柊じんしゅうも見たくはないだろう?」


 「安心してください。陛下が玉座にお座りになられても、お亡くなりになられることはありませんので」




 ふざけた事ばかりを言う皇帝に対し、呆れながら淡々と返す黒髪の男性───皇帝陛下の従者の仁柊。


 その様子を神官や神力者たちは、何とも言えないと言う表情を浮かべただ、見つめている。



 皇帝は「冗談はさておき」と玉座にすんなりと座る。


 その隣で仁柊がイラッとしたのは言うまでもない。




 「まずは、今日の日まで誰一人とかけず生きてきたこと大変嬉しく思う。まぁ、半不死なのだからそう易々とは死なぬか」




 一人、あっはっはと声をあげ笑う皇帝に、仁柊はわざとらしく咳をし、話を進めるよう促す。


 そんな仁柊に皇帝は「分かっておる」と話を続ける。




 「これから各家の当主を決める座学が行われるわけだが、私から言えるのはただ一つ。

友達を作れ。そして青春を謳歌しろ」




 そうふっと笑みを浮かべる皇帝。


 そんな皇帝の言葉に、神力者たちは騒つく。




 ほとんどのものは、当主になるために、座学へと参加をしており、そこに皇帝の言う友達を作るや、青春を謳歌すると言う目的は含まれてはいないのだから当然だ。




 「友達って……」


 「ボクたちはもう、子どもではないのだけれど」




 苦笑する千季と文月以外の神力者たちも「友達?」「俺たち、座学をしにきたんだよな?」と苦笑し、困惑している。


 その様子を見て、またもや愉快に声をあげ笑う皇帝。




 「お主らはまだ十七から二十歳の青春真っ只中だ。これから先、嫌でも当主や皇帝の座をかけ戦わなければならないし、嫌でも長く生きて行かなければならない。ならば少しでもまだ芽の若いうちに日々を楽しんだほうがいいと言う、おいぼれの言葉だ。

無理にそうしなくてもいい。だが、今その歳でしか感じられないものや、体験できないものがある。

そしてそれらは必ず生きていく上で宝になる」


 「だから神に選ばれし子らよ。今をただひたすら生き、楽しめ」


 「さすれば、必ずや立派な皇帝になれるだろう。」




 そう言ったかと思えば「私みたいにな」と片目を閉じる。


 すかさず、仁柊は「威厳を保ってください、陛下」と頭を抱える。




 「さてと、皇帝らしい事をしたし、後日改めてお披露目会もある。この辺で終いにしよう」




 そう言って玉座から立ち上がる皇帝。


 勝手に帰ろうとする皇帝に「へ、陛下!!」と慌てて仁柊は止めるも「私は帰るぞ」と全く聞こうとはしない。


 かと思えば「あぁ、そうだ」といきなり立ち止まるため、危うく仁柊とぶつかってしまいそうになる。




 「言い忘れていた。皆のもの、健闘を祈る」




 そう言って今度こそ、その場を去っていく皇帝。


 その様子を見ていた丸い眼鏡の神官は「……これにて開会式を終了します。神力者の皆様は、神官の指示に従い、各宮に向かわれるようお願いします」とぐだぐだの開会式をなんとか終わらせる。




 「……終わったみたいだね」




 物凄い速さで開会式が終わり、呆然とする花都に泉凪は「そうみたいだね」ときらっとした笑みを浮かべる。




 「この後は、神官たちが宮に案内してくれるみたいだけど、少し時間がかかりそうだね」




 こんなにも早く開会式が終わると思っていなかったのか、神官たちは慌ただしく動き回っている。

 



 「こう言った畏まった雰囲気には慣れないね」


 「宮に案内してもらえるまで、少し拝謁室の外に出て待っとこうか」

 



 泉凪と花都はそう、拝謁室から出ようとした時だった。


 どこからか「泉凪!」と呼ぶ男性の声だが高く、可愛らしい声が聞こえてきた。




 「あぁ、心大か」




 泉凪の名を呼んだのは、心大で、先ほどまでの落ち着かない様子とは違い、表情が明るい。


 「久しぶりだね、泉凪!」と笑う姿は、可愛らしい幼子のようだ。




 「久しぶりだね、心大。そして、誕生日おめでとう」


 「わぁ! ありがとう、泉凪!」




 誕生日を祝ってもらったことが嬉しかったのか、ニコニコと笑みを浮かべる。


 心大はついこの間、十七の誕生日を迎えたところで、神力者の中で、歳が一番下なのだ。




 「そうだ! 泉凪、彼が私の従者になった千景ちかげだよ」




 心大に紹介された、総髪で切長い目をしている心大の従者──千景は「心大様の従者の千景です。」と丁寧にお辞儀をする。




 「そうだった、紹介していなかったね。彼が私の従者の花都だよ」




 泉凪の言葉に、花都も「泉凪様の従者の花都です。」とお辞儀をする。



 今回の座学から、神力者たちは従者を付けることが出来るようになるので、神力者たちの従者は互いに初対面となる。




 「月花様のお話は、よく心大様から拝聴しております。」




 千景の言葉に続け、花都も「私も、心大様のお話は常々拝聴しています」と和やかに話し出す。



 泉凪と心大は、皇宮入りをしたタイミングが同じで、互いに唯一の同期なため、気心が知れている間柄なのだ。




 「そういえば、どこかに行こうとしていたの?」




 心大が声をかけたのは、丁度、泉凪たちが拝謁室から出ようとしている時だった。


 泉凪は「外の空気を吸いに……心大も来る?」と問うと、心大は「行く!」と元気よく返事をする。



 そんな心大を見て、泉凪はふふっと口元が緩む。




 「それじゃあ行こうか」




 そう言って拝謁室の扉へと向かった時、同じように拝謁室から出ようとしている人物に遭遇したのだ。


 その人物を見て泉凪は「これはこれは……火翠の若君じゃないか」と声をかける。

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