皇位継承編 いい男だね
神守山に入ってしばらくし、千季は困っていた。
「あんた、ちょーいい男だねぇ! 何千年と生きているけど、あんたみたいないい男初めて見たよ〜」
そう言って、頭に二個のくるっと巻かれたツノが生え、口元からは二本の牙が見え、一見人のように見えるが、その雰囲気は決して人とは思えないほど、独特だ。
その者は、そう言うと千季に抱きつき、千季は「ははっ……それはどうも」と苦笑いを浮かべている。
あくまでも、人間の女性のような見た目をしているため、無下にできない千季。
先程出会ってから数分、ずっと「あたしゃあんたの顔を気に入ったよ〜」とくっつかれているのだ。
試験の時間もあるため、どうしたものかと一つため息をつく千季。
そんな千季に「何だい? そんなにあたしにくっつかれるのがやなのかい?」とツノの生えた者は口を尖らせる。
「……そう言うわけじゃないんだけど、早く神獣を見つけて、会場へと連れて行かないといけなくてね。どうしたものかと」
そう言う千季の言葉を聞き、ツノの生えた者は「会場って、あんたもしかして神力者かい?」と問いかける。
千季が「そう、だけど……」と答えると、ツノの生えた者は「なぁんだ! そうなら早くいいなよ〜! あたしが一緒に行ってあげる!」と千季の背中をバシッと叩き、千季は痛がる。
「一緒に行ったあげるって……?」
「あたしはあんたが探している神獣よ!」
ツノの生えた者の言葉を聞き、千季は「え……」と驚いた表情を浮かべる。
そんな千季に「そんなに驚くことかい? 私はそこそこ強い神獣なんだよ?」と言う。
「いや……強いのは雰囲気から分かっていたけど、まさか神獣だとは……二足歩行だし」
千季がそう言うと、ツノの生えた者はあっは!と大口を開け笑い「二足歩行って……!」と言う。
「いいね、いいね! 顔も性格も気に入ったよ! ささっ! 会場に行かないといけないってことは、今、試験の最中なんだろ? 早く行くよ〜」
千季は戸惑いながらも「いいの?」と聞く。
ツノの生えた神獣は「当たり前だろ〜? そうと決まれば早く行くぞ!」と、千季の手を引くツノの生えた神獣。
そんな神獣に千季は「ありがとう」と笑みを浮かべる。
千季の笑みを見た神獣は、惚れ惚れしたような表情を浮かべ「なんなら一生一緒に居てやろうか?」と言う。
「それはいいかな」
「照れるでないぞ〜」
「照れてないよ」
何とか千季も、神獣を連れて会場へと向かうことができた。
そんな一方で、悠美も困り果てたような表情を浮かべていたのだ。
「若いの! ちゃんと聞いているのか?」
大きな綺麗な朱色の毛並みをした鳥が、目の前に座る悠美にそう問いかけると、悠美は「えぇ……聞いていますよ」と苦笑いを浮かべる。
神守山に入って直ぐに、悠美は神獣を見つけることができた。
のはいいものの、その神獣は少しアクの強い者で、先程から十分ほど、神獣の過去の話を、しかも同じ話を永遠に聞かされていたのだ。
悠美は神獣と出会い、会場へと着いてきてくれないかと頼むと、すんなり受け入れてくれたのだが、少し酒に付き合えと言われ現在に至るのだ。
機嫌を損ね、着いてきてくれなくなっては困るため、悠美は話に付き合うも、いい加減切り上げたそうだ。
「ん? 酒が全然進んでいないじゃないか! ほら飲め飲め!」
そう神獣に酒を勧められ「いや、私は今試験中だからこれくらいで……」と言う。
すると神獣は「あ、そうだったそうだった! すっかり忘れてたわ。会場に着いてきて欲しいんだよな!」と言う。
「すまんな、話しすぎて。そろそろ行くか!」
そう言う神獣に(やっとか……)と思いながらも「いえ……」と立ち上がる。
そんな悠美を見て、突如神獣は「兄ちゃん、凄く綺麗な顔してるな」と言う。
「は、はぁ……ありがとうございます」
「いや〜、とんでもなく綺麗な顔してるな! こんなに綺麗な人を見たのは、何百年ぶりかな? 前に見たのは兄ちゃんと同じ蘇芳色の髪の……」
そうまた、話し出す神獣。
そんな神獣に悠美は「勘弁してくれ……」とため息をつく。
それから神獣は、話して終えての繰り返しで、耐えかねた悠美はとうとう神獣に「話が長い!!」とつっこむ。
神獣はとても驚いた表情を浮かべる。
「話は後でたっぷりと聞く。今すぐ会場に着いて来い。 いいな!!」
そう言う悠美の圧はすごく、神獣は「は、はい」と返事をし、無事に悠美も神獣を連れ会場へと向かうことができたのだった。