皇位継承編 私の従者だよ
宮女たちが、頬を染めざわざわとしている。
その視線の先には、悠美と悠美の後を続く心温がおり、宮女たちの熱い視線を独占していた。
そんな悠美を見た千季たちは「数百年経っても、人々を狂わせてしまうほどの美しい見た目は健在だね」「流石だね」と口々に言う。
千季たちの言葉が聞こえていたのか、悠美は「聞こえているぞ。何だその言葉は」と引いたような表情を浮かべている。
「あ、僕が言っているんじゃないからね。官人や国民らが君を称賛するために広まった言葉だからね。」
咄嗟にそう弁明する千季。
そんな千季に悠美は「それくらい分かっている」と言い返す。
「にしても、悠美も大人になったね。少し雰囲気が変わったんじゃないかい?」
悠美を見てそう言う文月に続け、心大が「僕も思っていました!」と頷く。
文月たちの言う通り、悠美は大人っぽくなっただけではなく、何処か落ち着きがあり、前よりも更に色気が出てきたようだ。
「何だか、千季さんと似た雰囲気を感じます!」
心大の言葉に千季は「え〜、真似しないでよ悠美」と言い、悠美は「してない」と返す。
「待ってくださ〜い! 涼雅様ぁぁ……!」
突如、そのような声がしたかと思えば、涼雅が会場内にやって来ており、後ろにいる男性に「うるさい! 早くしろ!」と何処かイラついたように返す。
すると、悠美たちに気づいた涼雅は「お、皆んなもういんじゃん!」と近づいて来る。
「久しぶりだね、涼雅。」
「相変わらず君は、騒がしいね」
千季と文月がそう声をかけると、涼雅は「文月ちゃん達も相変わらずだね〜!」と笑みを浮かべる。
そんな涼雅と少し遅れをとってから、先程、涼雅を追って走って来ていた男性が、悠美達の元にやってき「涼雅様! どうして置いていくんですかぁ〜!」と泣き顔を浮かべる。
そんな彼に涼雅は「うるさい! お前が遅いのが悪い!」と言うと「そんなぁ……!」と更に泣き顔を浮かべる。
「……もしかして、彼は涼雅の新しい従者か?」
雪乃の言葉に、涼雅は「従者じゃない」と答える。
「いつも側で使えている、ただの人間だ」
「それを従者って言うんじゃ……」
千季はそう苦笑いを浮かべるも、涼雅は頑なに「従者じゃない!」と言う。
すると、泣き顔を浮かべていた彼は「酷いですよ! 私はれっきとした涼雅様の従者の白夜です!」と皆んなに自己紹介する。
彼は、涼雅の従者の白夜で、前任の従者が亡くなり、新しく涼雅の従者になったのだ。
だが、涼雅はそれを認めたくない様子。
そんな涼雅を見て、心大は(涼雅さん。前の従者をとても大切にしていたから、まだ受け入れられないのかな……)と心配する。
「……そんな事より、泉凪はまだ来ないな」
悠美にそんな事と言われ「そんな事!?」とショックを受ける白夜。
そんな悠美の言葉を聞き、涼雅は「泉凪まだ来てないの?」と尋ねる。
涼雅の言葉に千季は頷くと「少し遅れているのかな?」と言う。
その時、悠美の時と同様に、辺りが騒がしくなる。
何事かと見てみると、宴会場の入り口には綺麗に伸びた桔梗色の髪を、靡かせながらやって来る泉凪の姿があった。
そんな泉凪を見て、皆は固まる。
何故なら、数百年前もとても美しい見た目をしていたが、更に美しさに拍車がかかり、素敵な大人の女性へと成長していたからだ。
悠美たちに気づいた泉凪は「皆んな、久しいね」と声をかける。
だが、あまりの美しさに皆、言葉を返す事を忘れ、黙って泉凪を見ている。
そんな悠美たちに泉凪は不思議そうに「どうしたの? ぼーっとして」と言う。
その言葉に悠美たちはハッとし「……驚いたよ。何処ぞの綺麗な女性かと思ったよ」「本当にますます美しさに磨きがかかったね」と千季と文月は言い、他の者も頷く。
すると、千季は悠美に「ね? 悠美もそう思うでしょ?」と話を振る。
「あぁ。相変わらず、綺麗だな。泉凪」
そう言って、愛おしそうに微笑む悠美。
そんな悠美を見て千季と心温は驚く。
久しぶりに泉凪に会い、緊張と照れで上手く話せなくなるのではと思っていた心温。
千季も同じ事を思っており(褒めるのに手慣れている……? 数百年の間に色々あったんだね、悠美。少しがっかりだよ)と白い目でみる。
そんな千季を見た心温は(ハッ……! 水園様が勘違いをしている気がする!! 悠美の体裁の為にも後で弁明しなければ……!)と思う。
泉凪は「ありがとう」と笑みを浮かべる。
そんな泉凪を見て悠美は、何処か違和感を覚える。
(……何だか、様子が違うような……)
悠美がそう考えていると、心大が「そう言えば、花都さんは?」と聞いた時、何処からか「泉凪様!!」と呼ぶ声が聞こえてき、悠美たちはそちらを見る。
そこには、二人のまだ若く見える少年が、泉凪目掛け走ってきていた。
そんな二人を見た泉凪は「泉、凪」と名前を呼ぶ。
「泉凪、あの二人は?」
心大は不思議そうにそう問いかけると、泉凪は「あぁ……」と言うと、心大たちの方を向きなおす。
「私の従者だよ」
「え……」
そう言った泉凪の言葉に、悠美たちは驚いた表情を浮かべる。