プロローグ
かつて、皇帝陛下と共に戦い、競い合った者は言う。
「彼女が治めるこの国を、遠くで守りながら死にゆくのはとても喜ばしいことだ」
「この国の豊かさは彼女の心を表しており、この国の幸せは彼女からの祝福で、この国の美しさは彼女自身のよう」
そう言った者たちは、これ以上幸せなことはないと言わんばかりの笑顔を浮かべ、まるで宝物を自慢するかのような声色だ。
神守国が出来てから、何千年の時が越えようとしている今、現皇帝陛下に代わり神守国は過去で一番と言っても良いほど、豊かで穏やかな国になっていた。
とても聡明で慈悲深く、どんな者の声にも耳を傾け、問題が起きれば自ら出向くと言う皇帝陛下。
そんな皇帝陛下の誕生祭に民達は、皇宮に集まり「皇帝陛下万歳!!」と祝福の声を上げる。
その様子を廻縁から見守る、美しく濃い桔梗色の長い髪をした女性が「今年も賑やかだな」と独り言のように呟く。
そして後ろを振り返り、少し照れくさそうな笑みを浮かべる。
「毎年のことだが、やはり皆に祝ってもらうのは照れくさいな。皇婿」
皇婿と呼ばれる者には丁度、影が当たりはっきりとその姿は見えないが、愛おしそうに微笑んでいるのが口元だけでもわかる。
皇婿と呼ばれる者は「そうだな」と頷き、皇帝陛下の元へ近づく。
皇帝陛下は民らの声に応えるよう、優しく微笑み手を振り、沢山の祝福の声を聞きながら、ふとこれまでの事を思い出す。
それは孤独で悲しく、時には残酷で。
だが確かに幸せな日々だった───