ルームメイトの悪役令嬢とガラケー
「ジョセフィーヌ! ジョセフィーヌ! ああ、ジョッセッフィーッヌッ!!」
ルームメイトのフランシスカが、私の名前を叫びながら部屋に飛び込んできた。
「どうどう。フランシスカ様、どうなさったの? そんなに鼻息を荒くされて」
「聞いてくださる? ジョセフィーヌ! わたくし許せませんわ。絶対に許せませんわ!」
フランシスカは憤慨している。私は、なだめるように冷静な口調で話す。
「いったい何がありましたの? フランシスカ様。何がお許しになれなくて?」
私の声に、フランシスカも落ち着きを取り戻したようだ。理由を話し始める。
「実は今日、婚約者のアンソニーと会っていましたの……」
アンソニーは辺境伯の子息で、フランシスカの婚約者だ。美男美女のお似合いのカップルである。
「アンソニーったら、わたくしのプライベートの連絡先を知りたいって言うの。ですから、わたくし携帯電話を取り出しましたの。その時ですわ!」
落ち着きを取り戻したはずのフランシスカが、再び鼻息を荒くする。
「アンソニーったら、わたくしの携帯電話を見てこう言いましたの!『ははッ! フランシスカ様、まだガラケーをお使いなのですね!』って」
ガラケー? 今どきガラケーを使う人は確かに見ない。
「わたくし許せませんでしたわ! トサカにきましたわ! ガラケーが何かは知りませんけど、あまりにも許せなくて、アンソニーとの婚約を破棄して参りました!」
「婚約破棄? 本当ですか!?」
それが本当ならエラいことだ。学園中のニュースになるに違いない。
「ところで、ジョセフィーヌ。ひとつ聞きたいのだけれど。ガラケーというのは何ですの? わたくし初めて聞きましたわ」
ガラケーが何かも知らずに婚約破棄までしたのか。このお嬢様は。
「ガラケーというのは、ガラパゴス携帯の略ですわ。ガラパゴス諸島の生き物たちみたいに、日本で独自に進化した携帯電話のことをガラケーと呼びますの」
それを聞いてフランシスカは鼻息を荒くする。
「やっぱり悪口でしたのね! アンソニーったら、わたくしのことをガラパゴスで育った時代遅れの田舎者の小娘と鼻で笑ったのですわ! 許せませんわ!」
「どうどう落ち着いてください。フランシスカ様。ガラケーは悪口ではありませんわ。むしろ、そのような希少価値のある物をお使いになって、さすがはフランシスカ様とアンソニー様は褒めてらしたのですわ」
フランシスカの動きがピタリと止まる。
「あら、そうなの?」
「ええ、きっと」