うば捨て山(もうひとつの昔話 51 )
たいそう貧しい国がありました。
ある日。
この国を治めていた殿様が、「六十歳を超えた年寄りは、親であっても山に捨てなければならない」というお触れを国中に出しました。
それは口減らしといって、次の世代の者が生き残るためには仕方のないことでした。
それほど食料の乏しい国だったのです。
ある山奥の村。
そこには老いた母親と息子が暮らしていました。
この日。
息子は母親を背負い、泣きながら暗い山道を登っていました。
かたや母親は、これから自分が捨てられようとしているのに、息子が帰り道に迷わないようにと、木の枝を折って道しるべをつけていました。
山の奥深くに着きました。
心根の優しい息子はどうしても、母親を山に置き去りにすることができません。
母親を背負って家に帰ると、こっそり床下に隠し部屋を作り、そこで住まわせました。
そんな、ある日のことです。
年寄りを捨て、大切にしないと聞き知った隣国の殿様が使いを寄こし、「灰で縄を編め」という難題をふっかけてきました。解けなければ、攻め入って自分がこの国を治めるというのです。
殿様は国中にお触れを出し、この問題を解く良い知恵がないかと問いました。
心根の優しい息子が、殿様のお触れのことを母親に話すと、母親が即座に答えます。
「固く編んだ縄を塩水につけ、それが乾いてから焼けばいいんだよ」
「わかった、やってみる」
息子は母親に言われたとおりに灰縄を作り、お殿様のお城へ持っていきました。
「おー、助かったぞ」
殿様はとても喜び、若者にたくさんの褒美を与えました。
ところが。
それからも隣国は難題を突きつけてきます。
「七節の曲がった竹に糸を通してみよ」
「叩かないでも鳴る太鼓を作れ」
そんな難題をいくつも出されましたが、若者の母親の知恵のおかげで、隣国の殿様もついには攻め入ることをあきらめました。
殿様はお城に若者を呼び寄せました。
「この国は、おまえの知恵で救われた。あのような難題、おまえはいかにして解いたのじゃ?」
「お殿様、じつは……」
若者は年老いた母親から教えてもらったことを正直に話しました。
「そうであったか。わしは、なんと愚かなことをしていたのだ」
殿様はそれまでのことを悔いあらため、「年寄りには腹いっぱいの食べ物を与え、死ぬまで家で大切にしなければならない」と、さっそく新たなお触れを出したのでした。
三年後。
若者の住んでいた国は滅んでいました。
隣国の殿様から攻め盗られたのではありません。
いっさいの食料が底をつき、殿様をはじめ、住む者みなが飢えて死んでいたのでした。