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こうして、謁見は無事に終了。
コレイカダンジョン最深部注意喚起についての広報関係は、
後はまるっと超有能な実務方の皆さんにお任せ。
もちろん、ミルルシュモさん関連は絶対に誰にも内緒。
ひと仕事終えた俺たちは、冒険依頼はほどほどに王都で旅の疲れを癒す日々。
ニルシェ王都では馴染みのお宿に連泊中。
このお宿はナクレイスさんの件でお世話になって以来、
俺たちのニルシェ王都暮らしの定宿となっております。
宿を仕切っている女将さんがお母さん、
調理や仕入れなどの裏方担当がお父さん、
掃除や洗濯などの家事全般は娘さん。
ご一家揃って働き者の気持ち良く過ごせるお宿ですよ。
看板娘のキュルミィさんは短耳系うさぎの獣人さんで、
その愛らしいルックスと気立ての良さを存分に活かして毎日くるくるお仕事。
つまりは、働き者な頑張り屋さん。
まさに看板娘の王道ド真ん中な逸材なのですが、
少しでもちょっかい出そうとする荒くれ者や勘違いしたストーカーどもは、
ご近所在住の恐いお兄さんたちからアレされちゃうらしいのでご用心。
どうやら、ご本人のあずかり知らぬところで謎のファンクラブが精力的に暗躍、
もとい活動しているようですね。
それも結構な勢力の。
まあ、知らぬは本人ばかりなり、ですな。
でも、何か良いよね、そういうの。
健全な社会の営みには、異世界も異種族も関係無いのです。
「ウェイトさん、この色紙にショセ様のサイン、ぜひお願いします」
「ちゃんと"キュルミィさん江"って、ねっ」
これぞまさしく健全な格差社会の営み……
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冒険者稼業を続けたいなら身体が資本、疲れを取るのも立派なお仕事。
ってことで本日は、週に一度の休養日。
今はお部屋でのんびり、10時のお茶の時間。
この宿で俺たちが借りているのは、ちょいと大きめのひと部屋のみ。
これまでのふたり旅で、いつしかしっぽり深まった仲……
なんてことはカケラも無く、
一軒家テントをお部屋の中に設営してのふたり暮らしですから。
もちろん宿公認ですよ、お部屋の中でのテント設営。
そういえば、この件を宿の女将さんに了承してもらった時の、
側で聞いていたキュルミィさんの安心したようなお顔が印象的でした。
相変わらず乙女に大人気なのですよ、リルシェさん。
何せ『乙女の守り神』が二つ名の、筋金入りの乙女の味方ですもん。
元々はノルシェさんとして乙女の味方を頑張り過ぎた二つ名だそうですが、
今みたいに変装したリルシェさんとしても頑張っていたら、
また乙女守護関係のイカす二つ名が増えちゃうかも。
「……」
はて、そのリルシェさんが『Gふなずし』を前にして浮かない顔。
何か乙女関連の問題発生かな。
「緊急の注意喚起、ですね」
……またですか。
やっぱりそれも俺たちがショセ様に謁見報告を?
「いいえ、関係各国や各ギルドなどの主要機関にはすでに通達手配済み、だそうです」
「今回の私たちへの連絡は、あくまで注意喚起ですね」
「未だかつて無いほどの手練れな手配犯の、行き先・潜伏先が全く特定出来ないため、念のため魔族領にいる私たちも警戒してほしいってことのようです」
おっと、ワールドワイドな凶悪指名手配犯ですか。