第11話 幼馴染が新技を編み出しました その1
ジャーマンシェパードの鋭利な牙が俺の腕に迫る。あぁ…南無三……。
「キャンキャン…!」
途端、ジャーマンシェパードは何かに怯えたかのように突然迫るのを止め、俺達から離れていった。…間一髪助かった。
「こらっ!だめじゃないかっ!…どうもすみません」
飼い主が丁重に謝ってきた。俺達は軽く会釈してそそくさとその場を離れる。少し離れたところまで移動すると、俺は立ち止まって冷や汗を手で拭った。
「あ、危なかったー…」
マジ腕持ってかれるかと思った…。咄嗟の行動とは言え、あのまま噛まれてたら大ケガしていただろう。なにより遥が無事でよかった…。
――と思いながら遥に目を向けると、すごい涙目になっていた。
「遥人ー…、無事でよかったぁー…」
「泣くなって。ほ、ほら…シューチョコまた買ってやるから」
別に俺が泣かしたわけじゃないのに、なだめ方が子供っぽくなってしまった。
遥は小さい頃、さっきと同じように大きな犬にめちゃくちゃ吠えられたことがある。その時から、彼女は吠える犬に対して恐怖心に近いものを感じるようになってしまった。俺もそれを知っているから、彼女が怯えていたのも理解できる。
しかも吠えられるどころか飛びかかってこられたらそりゃ涙目にもなるだろう。
すると、遥が俺の左袖を掴んできた。
「遥人…かっこよかった」
あれ…なんだろう…このこそばゆい感覚は。っていうか、なんで袖掴んでんの…?
「遥…その…袖を掴まれると、歩きづらい」
「じゃあもうちょっと下持つね」
「いや…そういうことじゃなくて…」
俺は別の意味で冷や汗を垂らすが、彼女の手はするすると下に降りていき―――俺の手を掴んだ。え……
「これなら…歩きづらくないよね?」
いや…まぁそりゃさっきよりはそうだけど………じゃなくて!これじゃあまるで恋人同士じゃん!……と思って遥に目を向けると―――
遥の顔が真っ赤だった。―――途端、俺の心臓がドクンと高鳴りした。そして…急激に顔が火照っていくような感覚…。風邪でも引いたのか…?いや違う。寒気もしないしくしゃみも出てない。
「……嫌?」
その声はやけに甘く感じた。
「嫌では……」
なんか…言葉が詰まる…。なんて言ったらいいのか……わからない…。
俺がオドオドしていると、遥が不意にハッとしたような顔をする。そして、掴んでいた手をパッと離した。
「…どうした?」
「ご、ごめん…!ちょっと…体が…熱くて…」
「え…?大丈夫か!?インフル!?…でも季節じゃないよな…」
「あぁ…もう我慢できない…!」
遥はそう言って、口を開けた―――次の瞬間。
ゴオォォォ!!
遥の口から真っ赤な炎が勢いよく放たれた。え……?えぇ……!?
その勢いたるや凄まじく、炎は数メートル先まで到達した。遥は炎を吐き終えると、呆然とした表情でポツリとつぶやいた。
「出ちゃった…」
「新技……おめでとう…」
何がなんやらだが、とりあえず新技を祝うことにした。