第10話 潔く負けを認めました
遥が超能力に目覚めて1日が経ったが、学校のみんなの様子は特に変わっていない。遥が一部の友人にしか超能力を見せておらず、学校全体に噂が広まっているわけではないことも大きいか。
昼になり、俺はついに遥から渡された弁当を取り出した。途端、エロ太郎がそれに反応する。
「え…?弁当?」
「あ、あぁ…」
遥が作ってくれたと言いたいところだが、彼女からは口止めされている。なので、テキトーに母さんが作ってくれたとごまかすことにする。
「母親が珍しく時間あってさ、いつも栄養偏ってるからたまにはちゃんと食えって」
「いい母ちゃんじゃん。俺の親なんて弁当にするなら自分で作れってうるさいんだよ。そんな毎日作れるならとっくに作ってるっての」
まぁ俺の母さんもぶっちゃけそうだけどな…。仕事してて夜も遅いから仕方ないんだけど。逆に遥はいつも弁当持ってきてるし、毎日自分で作ってるんだろう。すごいな。
ランチクロスを解き、ついに弁当箱の蓋を取る。2段になってて、上段がおかず、下段がふりかけ付きの白米になっていた。え…、見栄えめっちゃいいじゃん…。しかも俺の好きな卵焼きまであるじゃないか。
早速卵焼きを箸で取り、口に運ぶ。――――うま。え…普通にうまいんですけど。柔らかさも程よいし、味もしっかりしてる。ほうれん草とにんじんのお浸しもうまい!白米めっちゃ進む!っていうか全部うまい!
「あーうまかった…」
食べ終えて思わず口から漏れてしまった。高校生の昼飯で一番おいしかったです。
「いいなぁ…。俺も昼飯でおいしかったって言ってみてぇ」
エロ太郎が羨望の眼差しを向ける。こんなにおいしいご飯を食べたら、もうどうあがいても遥には敵わないなと思ってしまった。とりあえず後でお礼言っとこう。
放課後になり、いつも通り遥と下校することに。校門を出たところで、遥が窺うように顔を覗かせてきた。
「…お弁当どうだった?」
「超おいしかった。ありがとう」
即答。なんというか、今まで遥のこと俺と同じ凡人かと思ってたけど、料理が得意だったことを思い知らされて、もうこれは勝てないと悟った。
「よかったー…。気合入れたかいがあったよ」
遥は安堵した表情で胸を撫で下ろしている。
「遥、超能力使えるし、料理も得意だし、学力も俺とそこまで差が無いし…、もう惨敗っす」
ここで俺は負けを正式に認めた。これからは差が開く一方だろう…。
「えー!じゃあ勝ったご褒美は?」
「頭無限にポンポンしていいよ」
「わーい!」
遥が早速俺の頭をポンポンしてくる。もういいさ…、髪がぺしゃんこになるくらいやればいいさ…。
すっかり意気消沈してしまい、ポンポンされるだけされている―――と
「ワンワン!!」
突然、犬の勢いよく吠える声が耳をつんざいた。びっくりして目を向けると、男の人が連れている1匹のジャーマンシェパードが飛びつく勢いで吠えていた。しかも見るからに俺達に対して吠えてる…。え…なんか悪いことした?
「お、おい!どうした!?やめなさい!」
男の人は必死にリードを引いているが、犬は留まる様子無く、俺と遥に向かって飛びかかろうとしている。怯えてる遥を庇うように前に出つつ、刺激しないようにそっと離れていこうとする。
――その時、男の人の引く力を押し切って犬が飛びかかってきた。
「危ない!!」
俺は咄嗟に腕を前に出して、大きく開ける犬の口へと差し出した。