2プレイ目
【ログイン歴・ゲーム内時間2日目】
[基底界・ワンダー~トゥーラ間の街道]
ワンダーの街から出て、見通しの良い街道をズンズン進んでいく。
「せー。予め話しておいた通り、このまま3番目のキーポイントであるミスリーまでキャリーするよ。
ゲーム開始直後の楽しい試行錯誤を奪っちゃうのは悪いと感じてるけどね」
ゴメンネ、と軽い口調ながらもきちんと謝意が伝わってくる辺りホントに悪いと思ってるんだろうね。
「良いさ。もともと決めていたことだしな。そのミスリーってとこで用を済ませたら、またワンダーに戻ってからやり直して良いんだろ?
〈アヤメ〉」
と、抱えられながらぼくはそう返す。
うん、抱えられてる。お姫様抱っこである。
レベル1且つ、移動速度に関わるステータスに何も補正の入っていない聖⚙というプレイヤーに対して、
α、βから関わり初期勢である、このアヤメというプレイヤーのレベルは高く、移動速度も速い。文字通りお荷物を抱えつつ、光線でアクティブエネミーを蹴散らしながらも、だ。
「アリガト。そう言って貰えると助かるよ。
まぁ初っ端から丸1日遅くなるとまでは思わなかったけどさ」
「すまんて」
だから尻を撫でる手を止めろ。単なるアバターの筈なんだが、凄まじい再限度とリアリティーのお陰で感触もしっかり感じるんだからな。
幾らアバターが小柄だからって、人1人抱えながらも随分と器用だなこやつめ。だから揉みしだくな、こっちも揉むぞおい、皮鎧着けてるから無理だけど。
「装備換えようか?」
「心読むんなら手を止めろよ」
「ヤ・ダ」
こやつめ。マジで装備換えよった。UIによる換装後は胸元の空いたドレスっぽいバトルクロス。
こ や つ め。
おまけに抱えている腕の圧力が強くなった。強く身体と身体を密着させてるせいで、やたらとでかい胸部装甲に埋まっているぞおい。
「それで、丸1日ゲーム内でリハビリしたかいはあったの?」
ぎゅむぎゅむしながら話を戻すだと!? なおこの間にもいかにも初心者エリアっぽいエネミーを屠りつつ、すれ違うプレイヤーを追い抜いているのである。あっ指差さないで、やめて。
「うん。没入型自体、肌に合わなかったからプレイしてなかったしな。
チュートリアルでしっかりと慣らしたかいあって、だいぶ動けるようになったよ」
没入型は文字通り、五感全部をゲームに変換する、夢の中で操作する感じだろうか。
一昔前の小説によく出てきた設定と考えれば良いだろう。
とはいえ、その操作性はゲームによって千差万別。前にやったゲームも評判は良かったものの、ぼく個人には違和感が強く興味が薄れてしまったためプレイしていなかったのだ。
この通称<すこしふしぎわーるど>はその辺りの操作性が極めてクリアだ。
ゲーム独自の要素も組み合わせつつ、現実の身体よりも快適に動かせる、という謳い文句に間違いはなかった。
まぁ没入型も久しぶりなこともあり、操作に慣れるためみっちりと確認してたんだよね。丸1日経ってたのはビビったけど。
ゲーム内は現実時間に比べて4倍の早さで1日となるので、実質は6時間ではあるけれど。
その気になれば、1日96時間プレイ出来るのだ!(規制がかかるため無理です)
「そろそろエリアボスの生息地まで到達するよ。エリアボスの存在は聞いてる?」
「大まかには。次の街や城への関門だろう? そいつを倒さないと先に進めなくやつ」
そしてエリアボスを1度倒せば、次の街でログイン位置を更新出来るようになる。
エリアボスは街間の要所となる場所に、門番のように配置されており必ずそこを通らなければならないのだ(必ずではない)。
なお、エリアボスを1度倒しても何度でも倒すことは出来るし、未クリアのプレイヤーをクリア済みのプレイヤーが助けることも可能である(例外あり)。
「エリアボスは固有マップに切り替わるからね。私たちはパーティー組んでるから一緒に行けるけど。
ここのエリアボスはでかいイノシシ1体。まっ、私だけで瞬殺出来る程度のチュートリアルエネミーさ」
「そら現環境のトップ層ならなぁ。ただでさえ、高いプレイヤースキルを持ってたなら、道中の軽いレベル上げと初心者装備でも倒せるらしいし」
なんてことを話してるうちに、件のエリアボス地帯に突入したようだ。
辺りでちらほら見かけたプレイヤーやエネミーの姿が消え、やたらと広い荒れ地へと変化する。
先ほどまでは所々に林のある草原と、そこをぶち抜く街道だったのだが。
〔エリアボス・ストレイトボアと遭遇しました〕
そしてぼくは天を舞っていた。