これからもチーズと共に(一応最終話の予定)
小説家になろうの不便な所って、頭に挟みたい部分(登場人物紹介)を予約投稿するのがほぼ前日にならないとだめって事なんだよな……。
「これからも旅を続けるのか」
「ええ」
俺たちは、キミハラ様に深く頭を下げた。
「とりあえずはトウミヤ市へ行きます」
「英雄たちの晴れ舞台を盛り上げきれなくてすまなかったな。っつーかもう二、三日ゆっくりしていてもよかったのに」
貴族様たちの処置が終わった後、俺達は盛大なパーティの主役になった。
これまで見た事もないようなディナーに飲み物、俺達を称える声に囲まれ、今まで生きてきて一番幸せだった。
「あまりだらけていると良くないですから」
「そうか、実にらしいな。じゃあ俺も行こう。先代当主の失態を謝らなければならないからな」
「ギルドとしてはもう十分贖罪は果たされたと思っている。何より大罪人と言うべきデーキが死んだことは大きいからな。キミハラ殿のような人間が当主になるのであればヅケース家は安泰だろう」
そしてコトシさんが言うように、もうヅケース家には大した問題はない。
俺らなんかいなくても問題はないはずだ。
「でもこの後は」
「デーキやクロミールがどこであのチーズを知ったのか、それを知りたいし覚えたいってのがとりあえずの目標です。どんな物でも使い道一つだと思いますから」
「うむ、そなたなら過ちを犯す事はあるまい。でも…」
コトシさんのお墨付きももらった。本当に心強い。だけどコトシさんは言葉尻を不服そうに濁し、心地悪そうにしている。
「でも何ですか」
「そなたらの功績は莫大だ。しかし…」
「俺はその名前が気に入ってますんで」
俺と、ミナレさんと、ハラセキの三人組のパーティの名前。
正式に決まったその三人組の名前は、既に決まっていた。
——————————新・閃光の英傑。
「アックーはあんな事言ってましたけど、それでもあの時の顔は本当にきれいでした」
「そうか。アックーもまた被害者かもしれん……私が共に行き、その名前で登録されるようにしておこう、Aランク冒険者たち」
そして俺たち三人個々人も、Aランク冒険者と言う事になった。
「って言うかまだついて来てくれるんですか」
「当たり前だ。それが私の意志だからな」
「でも王女様…」
「今の私はただのミナレだ。そなたがそうしているようにその切り札は時と場合をわきまえて使う。それが有効だった相手に使ったようにな」
元々Dランクの冒険者だったミナレさんもAランクに格上げになった。俺よりも明らかに強いのに、身分も桁外れに違うって言うのに、それでも俺と共に旅を続けてくれる。
「……そなたと共にいたいからだ」
「コトシ殿も言っただろう、そなたならば大丈夫だと」
「俺なら大丈夫……」
「ああ、そなたと一緒にいると何が起きても何とかなりそうな気がする。そなたと一緒なら、これからどんな難局も乗り切れる気がする…………」
ミナレさんはいつになく熱っぽい顔をしていた。
それこそ、いつでももうやめたと投げ出す事が出来るはずなのに。それをしないでいてくれるほどに、俺のことを信じている。そんな人のために、俺は何が……
「複雑な事を考えるな。私も話がくどかったな、単純にそなたの側にいたいだけなのだ」
俺の体が少し持ち上がった気がする。
どうやらミナレさんに、抱きしめられているらしい。
俺も、この人と一緒にいたい。頼れる剣士だから?いや違う、女性として……
「ちょっと待ってください!」
「ハラセキ!」
そこに割り込んで来る、穏やかに聞こえて力強い声。
「そなたも付いて来るのか」
「私はもう決めたのです!兄上様!」
「ああ、あの後オカマゴ村の村人たちや俺の前で、堂々と宣言してくれたよな。それに対してちっとも反発が起きなかったのは奇跡なんだぞ」
ハラセキもまた、Aランク冒険者の称号と共に俺について行くことを決意した。
「そなたの意志を食い止める事もまた、不可能だろう。そうだな」
「ああ」
俺が地面に下ろされると共に、二人の男の人の声が交わる。
オカマゴ村へ行けば聖女様の跡取り、リンモウ村やヅケース家のお屋敷、と言うかこのヅケース家の領内に行けば当主の妹様。そんなもんを捨ててまで俺にくっつく事を選んだハラセキ。
「聖女様の存在は一種のイレギュラーだと言うのがオカマゴ村の教えだ。と言うか当主様のお家に生まれた事さえも偶然でしかない。そんなもんを当てにするのはやめろという話、わかるよな?」
「ええ…」
「そなたの故郷の村人たちはそれがわからなかった。村や家は人間によって滅ぶ物であり、魔物や災害で滅ぶのはむしろ特異であり幸運でもある。これからしばらくは離散した元村人たちの確保が最優先かな…」
俺の故郷の村人たちは多くの犠牲を産み、さらに今度の一件でヅケース家当主様やギルドからの印象は最悪のそれになってしまった。
アタゼンのように死んだだけならともかく、罪人扱いされた人も多い。どっちでないとしても、すっかり気力を失ってしまったかのように地面に寝そべっていた人もおり、彼らはリンモウ村やファイチ村、オカマゴ村に保護されている。
「ノージさん、私たちがちゃんとしますから!」
「無理をなさらないでください」
ヤヤさんは、俺に向かって深々と頭を下げてくれた。とりあえずヤヤさんなら大丈夫だろう、確証はないけど。
「私は、それが嫌なんです。短い人生だったかもしれないけど目一杯生きて、私を産んでくれたお母様のように…」
「そうだな。精一杯生きなければならんな。後悔せぬように。だから…」
ミナレさんは俺を軽く押し、ハラセキの胸の中へと押し込んだ。
もっとも俺の方が背が高いから、俺がハラセキを抱く形になるが。
「ノージ様……!」
「ああ、ハラセキ……!」
俺は抱いた。
さっきミナレさんにしてもらったように、ハラセキを思いっきり抱いた。
「私と、一緒に……」
「ああ、行こうぜ!」
メイド服がちょっとだけ濡れた気がした。
ひたすらにきれいなハラセキの笑顔。
それに対し頼もしいミナレさんの笑顔。
「これを守るために……」
そのために力を得る。
これからの旅は、そのための旅になるかもしれない。
「では行くとするか」
「そうですね、ハラセキ」
「はい!」
俺たちは行く。
これからも、チーズと共に。




