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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第十章 チーズは何を救う? 中編 究極のチーズ
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全てを決めるのは

「ふ、ふぅ……」

「ああ、俺達、いったい、どうし、て……」


 竜人から、人間に戻った村人たち。


 あの真っ黒なチーズの力がなくなったからか、うつ伏せに横たわったまま首を上げてキョロキョロしている。そこにはさっきまでの憎しみが込められた目はない。




「うわ、うわ……うわあああああああ!!」

「か、か、か、か、か、か、怪物だぁ!!」

「あいつにはもう、あが、がが、あががががが…………!」



 

 でも、恐怖心は残っていたようだ。俺とハラセキを恐れ、文字通り散り散りになっちまった。


「そ、そう、そうかかかかかかかか……よよよよよよよ、よくわわわわ」


 まあすぐ死ぬわけでもないしいいかとか言う思いをぶち壊すように飛び込む最悪の震え声。歯の根が合わず、足元もおぼつかず、股間が濡れていないのが不思議なほどの声。


「アタゼン……」

「命がけで、おま、おまおまおまおまおまおま……ギビギビギビギビギビギビ……」

「ノージ、あわれな村の代表者をなぐさめてやれ」

 

 偽善ですらない言い草だ。今まで気を失っていたのか死んでいたのかわからないがアタゼンがハラセキの力により立ち直ったと言うのに、ハラセキに対して感謝の言葉の一つもない。感謝の押し売りをする気もないが、ここまで逆恨みされればさすがに愛想だって尽きる。


「ここまでやられてその言葉しか出て来ないんなら、これが紛れもない本音って奴なんだろうな。その本音を受け取った上で、俺は動く」


 決して、自分で向かって行くことはしない。タフネスチーズの力があるとしても、勝てる保証はない。

 だから—————







「遅いではないか!」

「申し訳ありません、自分のチーズに自信が持てなくて!」

 光の中に飛び込みながら、俺は自分の遅参を詫びた。

 素直に言うべきことは言うしかない。

 その上で、チーズを渡す。

「ハラセキは癒しをもたらす。ならば私は刃となろう!」


 ミナレさんはアックーから下がりながら、チーズを口に入れる。


「ノージィィィィ……!」


 そして俺は逃げた。また別の相手のために。




「キミハラ様のためです!」

「キミハラ君のため、ね……うん、このチーズね!」


 オユキ様に渡したチーズ。ハラセキやミナレさんに渡したそれと同じ。


「今思うとさ、あいつかもしれないんだよね、私の体から吹雪を垂れ流しにさせたのってー」

「そんな」

「呪いをかけるチーズがあるなんて私でも知らなかったんだよ、でも実際キミカッタ達を見てるとねー」


 デーキのせいでリンモウ村を脅かしてしまったかもしれないオユキ様の言葉は、まったく軽くない。

 チーズの呪い、それが今俺が戦うべき敵かもしれない。






「そんなもんひとつで何が変わる!この、この、この!」

 アックーは光に包まれた中でも存在感を示すように武器を振り回す。さっきチラッと見た時にはものすごい数の剣の先っぽが転がっていた事からすると、折っては蘇りを何でも繰り返されていたらしい。

「ああもうこうなればぁ!」

 風が白い光を突き抜ける。

 激しく回転して全身の刃を振り回す気だろうか。こうなると犠牲者はミナレさんや俺だけじゃなくなる。


「ここまでする必要はないだろ!」

「あるんだよ。生意気な奴をしつける目的が!」

「その自分勝手な欲望のために何人を殺す気だ!」


 双子とは言え、兄の言葉はまったく届かない。

 その通り、これ以上傷つく人間が出る必要はどこにあると言うのか。



「ああもううっとおしいなあ!キミハラ君!キミハラ君のため、私頑張るから!」


 オユキ様が右手をかざし、氷の剣を作り上げる。



 一本や二本じゃない、十本、二十本……。



「えええい!」


 投げ付けられた氷の剣が白い光の中へと飛んで行く。


「邪魔する、なぁ!」


 ものすごい金属音が鳴り響き、アックーの黒い体が白くなる。耳を抑えたくなるほどの音だが、目を背ける訳には行かない。

 宙を舞う黒い刃。

 いや、どちらかというと角のような形状。その根元が折れていると言うか切り裂かれ、そちら側もまた武器のようになっている。


「何だよ、アックーの刃を折ったのか!?」

「そうだよー、これが現実って奴だよ」


 その間にも次々とオユキ様の氷の剣がアックーへと飛び、頭部を始めとしたあちこちを襲う。この流れで全ての刃を折る事が出来れば、もうこれ以上抵抗などしようがないだろう。


「この野郎!目の前の奴だけで、もぉ!?」

「ノージをやらせはせんぞ!」


 そして下の方でも、アックーの刃が失われたらしい。

「ああ、そんな馬鹿な、折られただけでもなのに!」

「これがチーズの正しい使い方だ!」


 ミナレさんの振った剣が、アックーの刃を「斬った」。

 「折った」ではなく、「斬った」。

 

「そんな、そんな力が!」

「私はノージを守る!私を救ってくれたノージを守る!そのために武器を振る!ノージのために!」


 俺のための刃。俺のための一撃。




 それが、ここまでの力を持つ事になるとは……。


 少しだけ、赤い頬が見えたのは気のせいだろうか。

中編の最後です。あと7話お付き合いください!

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