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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第十章 チーズは何を救う? 中編 究極のチーズ
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彼女たちは知っていた?

ポッキーやプリッツ食べました?

「お、おい……」


 あまりにもためらいのないハラセキの行い。

 まだ頭が回っていない俺がわずかにツッコミを入れるが、ハラセキは全く動じない。


「ノージ様……」

「いいのか…………」

「もちろんです!このチーズこそ私たちが求めていたそれであり、私たちの気持ちを最大限に生かしてくれるそれです!」

「いいのか…………」



 他に何も言えない。

 少し気力が戻ったとは言え、依然としてずっとチーズを食して来たはずの二人の行いを見るにつけそんな事をしていいのかと言う罪悪感が消えない。


「私はノージ様を守ります。いえ、全てを守ります」

「そう、だよな……」

「すみません、嘘を吐きました。私は、全てを守ろうとしているノージ様を守りたいのです!」

「全てを守る?」




 俺はそんなに大層な事を考えていたのか?


 俺はそもそも何のためにここに来た?


 俺はただ、ただハラセキとミナレさんと……。



「そのために、私は欲しいのです!ノージ様の作り出す、最高の切り札を!」



 最高の切り札?レインボーチーズなのか?


 いや……俺が作り出したのは、ただの……




「何をごちゃごちゃやっている!」

「アックー……」


 いや、俺はアックーを止めなければいけない。

 悪い物を食べたせいでバケモノになっちまった、あいつを。



「ノージはそなたらをも救おうとしている!私はその心に応えるまでだ!」

「そこをどけぇ!どけと言うのが聞こえねえのか!」

「どかぬ!」


 ミナレさんがアックーの前に立ちはだかっている。全身の刃を振り回し、俺の邪魔をする存在全てを切り刻む気でいる。二本しかない手、一本しかない剣で防げるはずがない。

「どうしてだ、どうしてノージをぉ!あんなチーズを出す事しか取り柄のねえ奴にぃ!」

「ノージは無私だ!自分が救いたいと思う相手に一も二もなく救いの手を差し伸べる!それこそ守るべき存在ではないか!」

「ギビキしか女を知らねえはずの存在がこれかよ!」

 文字通り、やたらめったらと言うべき攻撃。これでおそらくデーキも巻き添えを食らったのかもしれない。

「さあもっと行け、ノージの仲間を殺せ!」

「妹気取りの奴隷よ、泣きなさい!悲しみなさい!」

 もうこいつら二人の事はどうでもいい。

 まずはとにかくアックーを止めたい。そして、竜人になっちまった村人たちも。




 そのために何が必要か—————。




「私の力を……………………」

 

 白い光が、また広がる。

 ハラセキから放たれる光が光線のようになり、アックーとミナレさんを覆う。



「この野郎!」

「うっ……!」



 そこから飛んで来る、何が壊れた音とミナレさんの声。


「武器もなしにどうやって戦う!さあノージへの道を開けろぉ!」

「うるさい!剣先がまだやられただけだ!」

「ああ面倒くさい!どいつもこいつもノージのために死ぬ気か!」

 どうやら剣を折られてしまったらしいが、その姿を見る事はできない。

「ミナレ殿!」

 農民たちが駆け付ける。俺はどうすればいい。


「チーズです、チーズを!」


 また俺は、チーズを作った。


 なぜかわからないけど、ラブ・チーズを。



「そうです!ありがとうございます!」



 感謝の言葉と共に、ハラセキはチーズを口に含む。



 ハラセキの笑顔がさらに輝き、また光が飛ぶ。




 今度は、竜人たちへと向けて。




「そんなこけおどしにひるむな!」

「うおおおおお~ギビキィ~!」

 竜人たち、村人たちは自分たちの村の生み出した存在の名を叫びながら突っ込んで来る。アックーにもミナレさんにも、他にも何の関心もなさそうに。あのキミカッタの声さえもたぶん気にしておらず、本当にギビキを奪った俺を殺すためだけに。







 だが、真っ白い光の中に飛び込んだ緑色の肌の竜人たちが、一斉にくずおれた。







「うわ、あ゛あ゛……!」

「い゛い゛い゛い゛い゛…………い゛、だ……!」

「あ゛……がら゛だがぁぁ……な゛ががら゛ぁ……」

 とんでもなく苦しそうな声。


 だけど、何かが何かを突き破ろうとしているようにも感じる。


「どうなってるんだよ!」

「私の夢、それはノージ様の夢!

 ノージ様の、できるだけ多くの人を救いたいと言う夢!その夢のため!私は!私の力を!」


 聖女様の力とは別っぽいそれが、飛び交う。



「くそっ!なんでだよ!なんでさっき折ったはずの剣が!壊したはずの鎧が!」

「そのようだな!」



 光を受けたミナレさんの装備が復活しているらしい。壊されただろう剣も、鎧も。


「体が動く!まだやれる!」

「指が、指が、生えて…!」


 剣や鎧だけじゃなく、体の傷まで治して行く。それこそ、俺の望みだと言わんばかりに。

 確かにそうだ。否定なんかしない。


 今の俺は、全てを助けたい。

 そんな欲張りな事を考えずにいられない。



 その俺に応えるように、ハラセキの力が全てを覆って行く。




 まるで、この世界の全てを癒すかのように。




「あ…………」




 そして、ハラセキの力に呑まれた竜人も、もういなくなっていた。

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