村の事情
「山賊退治ですか」
ミナレさんから聞かされていた山賊退治。
その役目を、ミナレさんと俺にしてくれと言う事らしい。
「ヤヤ、よく呼んで来てくれた」
「この村のためですから!」
薄いひげを生やしたおじさんとそのおじさんを父様と呼んでいた女の人。そして結構大きな家。
「初めまして。わしはこのファイチ村の村長であるシューキチと申します。で、こちらが娘のヤヤです」
「よろしくお願いします!」
思った通り、村長さんとその娘さんだった。
「うむ、無論引き受ける。と言うか、そのためにここまで来たのだからな」
「おう、おう……!いやいやこれはこれは!」
「俺も及ばずながら戦わせてください」
「そうですかそうですか、全く感謝いたしております」
シューキチさんはしきりに手を合わせ、俺とミナレさんに交互に頭を下げる。あるいは嫌らしく見えるかもしれないけど、不思議と嫌な感じはしなかった。
「それで、山賊団の名前や規模をうかがいたいんですけど」
「ええそれですが、ナウセン団と申しまして数はおよそ百名ほど。ここから東の山を根城にしておりまして。棟梁はギイゲンと言う男でこれがかなりの強者でして、さらに性質も悪いのです」
そして非常にわかりやすくうなだれる。本当にいい人だってわかる。
「ここからは私が説明します。ギイゲンはね、山賊らしく女の人やお金、穀物を奪ってくだけじゃないの。それができないとなるとどこかの建物を壊したり最悪柵の一か所でも壊してさっと逃げちゃうの。追いかけたいけど下手に行けばその間にこのファイチ村が襲われちゃうし、正直どうにもならなくって」
「なるほど、かなり狡猾だな」
そしてヤヤさんから聞かされたギイゲンとナウセン団の作戦も、かなり厄介だった。
「それにしても他の村から救援を集める事とかはできないのですか」
「できないのです。この村は正直、かなりカツカツでしたな。ただでさえ山賊で難渋しているのにその上に税金を納めろと」
「税金……」
「事が後先じゃないか」
どこに税金を納めるのか知らないけど、村の治安が保たれてなければ税金なんか治めようがないはずだ。
「それでこんな調子ではとても護衛など派遣できないと」
「なんなんだそりゃ」
俺が思わず呆れかえってため息を吐くと、ついチーズを生み出してしまっていた。
「ちょっと!」
「ああすみません、これが俺なりの力で」
「そうですか、とりあえずどうぞ。よろしければですが」
俺がチーズを差し出す。ミナレさんの病気を治したのと同じチーズ。
「確かにおいしい、きちんとしたチーズだ」
「ありがとうございます」
「でもチーズだけで飢えを乗り切るのはさすがに無理があるのでは」
「俺はそれこそ一日チーズ六個で過ごして来た事もありましたから」
その日たまたま仕事がなく、アックーからも金をもらえなかった。下手にねだればお前の使い方が悪いと一日じゅう責められる。実際それで飯抜きにされ、夜中にこっそり作って食べたのだ。
「まったく、このノージは前のパーティでひどい扱いをされていたようでな、そこで放逐された所を出会ったのだ。私にはこんなに優しいのに、まったく何を考えているのやら」
「そういう相手私も欲しいなあ」
「おいおいおい、まずは山賊じゃろ~」
と思ったら村長さんもヤヤさんもはしゃいでいる。何なんだろう一体。
「あのそれより山賊の話を」
「そうだったな、先ほどヤヤが言った通り山賊はかなり厄介でな、それこそわしら一人一人が強くならねばならぬぐらいじゃよ」
「確かに……今から鍛えてもとても間に合いそうにないですからね」
「とにかくこの村が安全にならないとあの子も来ないからのう。ヤヤも寂しいじゃろ」
「あの子って……」
「ああメイドさんの子。貴族の事は正直嫌いだけどいつもやって来て私たちの即持つにきちんとお金を払ってくれるからその子の事は好きで。ほとんどお化粧なんかしてないで本当に丁寧で、それで全部自分が悪いみたいにこっちが申し訳ないぐらい真面目で、ああいう子が当主ならばいいのにって何度も思ったわよ」
と、ここまで来た所で俺は思わず心の中でびくついた。
って言うか貴族の中にもまともな人がいるって言うか、貴族から遠ければ遠いほどむしろまともってどうなってるんだよ。
「もしかして、いややめておこう。とにかくだ、山賊と言えば夜襲が付き物だが、それこそ今夜あたりとか」
「そんな、それこそまだ対策などまともにないのに」
「ノージ、強くなるチーズはないか?」
そして、すぐに覚悟しなきゃいけない時が来た。
「いやその、確かに閃光の英傑のメンバーに重要な任務の前に食べさせてたのはあるんですけど、有効かどうか……」
他に何にも言いようがない。
俺が出せるチーズの中で、少し塩辛い奴。
そのチーズを食べると力が出る。
その理由は、俺にもわからない。
シューキチ、ナウセン、ギイゲン……わかりますよね。